研究課題/領域番号 |
23792111
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
松尾 美樹 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20527048)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 二成分制御系 / 黄色ブドウ球菌 / バクテリオシン / gp340 / 口腔内定着 |
研究概要 |
本研究は黄色ブドウ球菌の口腔内定着機構の解明を目的としており、申請者は以下の2点に着目して研究を行った。1つ目は、唾液凝集素gp340を介した歯科材料への結合能、2つ目は 口腔内常在菌の産生する抗菌物質(バクテリオシン)に対する抵抗性である。1については、黄色ブドウ球菌臨床分離株50株を用いたgp340を介した歯科用材料付着能検証した結果、13株にてgp340依存性の歯科材料への付着が認められた。現在は、gp340依存性の歯科材料への付着が認められた黄色ブドウ球菌の一つであるMW2株について、トランスポゾンによるランダム不活性化株を作製し、gp340への付着因子の同定を行う予定にしている。2については、黄色ブドウ球菌の二成分制御系因子(TCS)不活性化株15株ならびに未解析トランスポーター不活性化株13組について、口腔や腸管、皮膚に常在するバクテリオシン産生株に対する感受性検証を網羅的に行った。その結果、classIバクテリオシン産生株に対して3組のTCS不活性化株ならびに4組のトランスポーター不活性化株の感受性の増加が認められた。3組のTCSのうち1組は、申請者らがバシトラシン耐性に関与することを明らかにしたTCS(BceRS)であった。このことから、BceRSは細菌の産生するバクテリオシンのうち、classIバクテリオシン耐性にも関与するという新たな知見を得た。また、口腔内細菌であるStreptococcus sanguinisはバクテリオシンとして過酸化水素を産生することが知られているが、過酸化水素を産生するS. sanguinisに対しても上記の3組とは別の2組のTCS不活性化株において感受性の増加が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
唾液凝集素gp340を介した歯科材料への結合能検証については、申請者の所属する研究室において黄色ブドウ球菌の臨床分離株を50株所有していたことから、本臨床分離株を用いることで、多くの黄色ブドウ球菌株にて唾液凝集素であるgp340を介して歯科材料へ付着することが認められた。また、口腔内常在菌の産生する抗菌物質(バクテリオシン)に対する抵抗性検証については、黄色ブドウ球菌のTCS破壊株はすでに作製済みであったことや、申請者の所属するラボでは黄色ブドウ球菌における不活性化株の作製方法が確立されており、13組の機能未知トランスポーター不活性化株は比較的スムーズに作製ができた。今回、申請者は、黄色ブドウ球菌の口腔内定着因子として、他菌の産生するバクテリオシン耐性を持つことが定着を果たすのに重要な役割を果たしているのではないかと考えた。バクテリオシン耐性に関与するシステムとして、申請者は、細菌特有の情報伝達系である二成分制御系因子(TCS)と、薬剤排出系トランスポーターに着目した。黄色ブドウ球菌MW2株は、16組のTCSと、13組の機能が明らかになっていない薬剤排出系トランスポーターを持つ。申請者の所属する研究室では、必須のTCSを除くすべてのTCS破壊株をすでに作製済みであったことや、黄色ブドウ球菌における不活性化株の作製方法が確立されていたことから、13組の機能未知トランスポーター不活性化株を比較的スムーズに作製することができたと考えられる。さらに、バクテリオシン産生株については、共同研究先から15菌種の供与を受けることができたことで、上記で作製した不活性化株を用いた感受性検証を網羅的に行うことができた。以上のことより、当初の計画以上に研究が進んだと考える。
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今後の研究の推進方策 |
唾液凝集素gp340を介した歯科材料への結合能検証については、gp340依存性の歯科材料への付着が認められた黄色ブドウ球菌の一つであるMW2株について、トランスポゾンによるランダム不活性化株を作製し、本不活性化株を用いてgp340への歯科材料付着因子の同定を行う予定である。方法としては、黄色ブドウ球菌のトランスポゾン作製用ベクターであるTn551を用いたランダム不活性化株を1000株程度作製する。これらの菌株を用いてgp340を介した歯科材料への結合能を検証することでスクリーニングを行い、歯科材料へ結合する菌数の低下が認められた不活性化株について、invert PCR法によりトランスポゾンの挿入部位を明らかにする。トランスポゾンが挿入していた遺伝子をpYT1ベクターを用いて不活性化させ、歯科材料への結合能の低下を確認後、pCL15ベクターを用いて遺伝子補完株を作製し、歯科材料への結合能の回復を認めるかどうかの検証を行う予定である。一方、バクテリオシン耐性については、これまでの実験でTCSと薬剤排出系トランスポーターが他菌の産生するバクテリオシン耐性に関与していることが示唆されたことから、以下の2点について検証を行う予定である。1つ目は、ゲルシフトアッセイを用いたTCSによるトランスポーターの制御の詳細な解析によるバクテリオシン耐性機構の解明、2つ目は生体内におけるバクテリオシン産生株と黄色ブドウ球菌の共存性を検証する目的で、MW2野生株、TCS不活性化株とバクテリオシン産生株をマウスの口腔内に同時に接種することで、定着率に差が認められるかどうかを検証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は黄色ブドウ球菌の口腔内定着性機構の解明のまとめに向けた研究を行う。具体的には、黄色ブドウ球菌MW2株の唾液凝集素gp340を介した歯科材料への結合因子同定のために、トランスポゾンによるランダム不活性化株1000株程度を用いてスクリーニング試験を行う。これらの菌株を用いてgp340を介した歯科材料への結合能を検証することでスクリーニングを行い、歯科材料へ結合する菌数の低下が認められた不活性化株について、トランスポゾンの挿入部位を明らかにすることで、黄色ブドウ球菌のgp340を介した歯科材料への付着因子の同定を行う。本実験に、PCR用のプライマー、酵素、細菌培養用の培地等に研究費を使用する予定である。バクテリオシン耐性については、TCSによるトランスポーターの制御の詳細な解析によるバクテリオシン耐性機構の解明を行う目的で、ゲルシフトアッセイを行う予定である。さらに、生体内におけるバクテリオシン産生株と黄色ブドウ球菌の共存性を検証する目的で、MW2野生株、TCS不活性化株とバクテリオシン産生株をマウスの口腔内に同時に接種することで、定着率に差が認められるかどうかを検証する予定である。本実験に、PCR用のプライマー、酵素、細菌培養用の培地等、ゲルシフトアッセイ用の試薬等、動物実験に用いるマウスを購入する予定である。また、これらの実験結果を学会で発表するための旅費、論文発表するための英文校正等に研究費の一部を使用する予定である。
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