骨格筋では沿軸中胚葉を由来とした筋前駆細胞から筋芽細胞、筋管細胞の分化段階を経て筋線維構造が形成される。本研究では、マウス舌初期発生における筋芽細胞分化制御に注目して、筋分化マスター遺伝子(Myod1、Myf5、Myog)、筋芽細胞マーカー遺伝子およびmiRNAの時空間的な発現ネットワークの解明を目指した。初年度に実施したマイクロアレイ解析では、マウス胎仔舌原基の成立過程(胎生(E) 10.5日→E11.5)において5倍以上の発現変動を示す151遺伝子(マスター遺伝子・筋芽細胞分化マーカーなど19種類の転写因子群を含む)とともに、同時間軸で発現上昇を示すmiRNA群を同定した。最終年度では、これらの発現変動分子間相互作用の総合的検証を目的として、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)を実施した。この解析結果では、スコアリングで上位に算出された筋発生制御の予測ネットワークにおいて、後期の筋芽細胞分化に働くNfixの関与が注目された:マウス筋芽細胞の分化段階では、E10.5~E12.5の早期に分化するembryonic myoblast (EM)とE14.5~E17.5の後期に分化するfetal myoblast (FM)が区別されており、NfixはFMの分化制御に働く。マウスNfix抗体による免疫組織化学では、E14.5より少数であるがE11.5舌原基でのNfixタンパク陽性細胞を確認できた。IPA解析では、Nfix遺伝子に作用しうるmiRNAの発現も認めた。以上の結果から、1)舌筋初期発生では胎齢の時間軸で短期間(E10.5~E11.5)に輻輳する筋芽細胞の分化制御回路が働き、2)miRNAによる精妙なEM、FM筋芽細胞分化シグナル調節のサポートを得て、舌筋群の複雑な線維配列形成を進行させると考えられた。
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