甲状腺ホルモン(TH)は核に存在する甲状腺ホルモンレセプター(THR)を介してシグナル伝達を行い様々な物質の発現に関与している。近年THの関与する系が両生類の腸粘膜上皮細胞の増殖を促すことが報告されていることから顎骨についても甲状腺ホルモン/レセプター(TH/THR)系による関与の可能性を考えた。 前年度はTHRのクローニングから得られたmRNAの配列からプローブを設計しin-situハイブリダイゼーション法にて有尾両生類アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)の顎骨の染色条件を確立した。本年度は、甲状腺ホルモン阻害剤プロピルチオウラシル(PTU)投与下での下顎骨切断後の歯槽骨の再生状況を観察し、PTU投与の顎骨への影響をin-situハイブリダイゼーション法、免疫染色法を用いて検討した。 日本産アカハライモリをPTU投与下で1カ月飼育したものをPTU処理イモリとした。通常どおり飼育したものはコントロールとした。下顎骨右側歯槽骨を切断し、切断前と同条件で50日間飼育した後、下顎骨を採取し固定・脱灰後にパラフィン切片を作製し組織学的に顎骨再生の過程を観察した。下顎骨の切断部位は切断部では外側皮質骨から内部にかけ下顎骨が再生していた。PTU処理イモリでは再生過程が阻害されており軟骨の形成がみられた。今回のPTU処理イモリは再生能が一部阻害されており再生阻害モデルとして有用である可能性が示された。本年度の研究で、TH/THR系が歯胚誘導のみならず顎骨の再生や軟骨形成にも関与している可能性が示された。
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