研究課題/領域番号 |
23792121
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
波多 賢二 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (80444496)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 軟骨細胞 / 転写因子 |
研究概要 |
軟骨細胞特異的マーカーであるII型コラーゲン遺伝子のプロモーターを用いて,軟骨細胞集団を改良型GFPであるVenus遺伝子でマーキングしたトランスジェニックマウス(Col2-Venus-Tg)を作成した。軟骨形成が活発な胎生期12.5日齢Col2-Venus-Tgマウスより四肢を回収し,0.1%Collagenaseを用いて細胞分散した後,BD社製FACS-Ariaを用いてVenusを指標に軟骨細胞とその他の細胞に分離後mRNAを回収しマイクロアレイ解析を行い,軟骨細胞特異的な転写因子と複数クローニングした。これら候補遺伝子群の中から,ホールマウントISH法(WISH)により,軟骨細胞に高発現する転写因子の検索を行った結果,フォークヘッド型転写因子FoxC1を軟骨細胞特異的転写因子の候補遺伝子として同定した。FoxC1はの過剰発現はアルシアンブルー染色陽性の軟骨細胞分化を促進するとともに、この作用はBMP2刺激により増加した。さらに詳細な生化学的解析を行った結果、FoxC1は内軟骨形成に必須の副甲状腺ホルモン関連たん白(PTHrP)の発現を顕著に増加させることを見出した。ヒトFOXC1の変異は,緑内障,口蓋裂を含む骨格形成異常,さらには歯の発達障害を示すAxenfeld-Rieger症候群を引き起こすことが報告されている(Nat Genet. 1998 19(2) :140-7)。これらの結果は申請者らの研究アプローチが生物学的のみならず臨床的にも有効であることを示している。内軟骨性骨化におけるFoxC1の役割のさらなる解明は,内軟骨性骨化の理解に寄与する可能性が非常に高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軟骨組織は三次元的条件,低酸素状態,豊富な細胞外マトリックスの存在など,生物学的に非常にユニークな生物学的特性を有する。そのため,新規遺伝子のクローニングには,従来の培養細胞を用いた研究ではなくより生体に近い条件での研究戦略をとる必要がある。本研究は,軟骨細胞特異的に改良型緑色蛍光タンパク質でマーキングした遺伝子改変マウスを作製し,FACSを用いてマウス個体から直接,軟骨細胞のみを分離し遺伝子プロファイリングを行うという新規のクローニングシステムを構築した。現在まで軟骨細胞の研究領域ではこのような研究アプローチはほとんど見られないことから,学術的意義の高い独創的な研究であるといえる。そして、平成23年度は軟骨細胞特異的遺伝子のクローニングに重点を置き研究を行った。マイクロアレイ解析により他の組織と比較して軟骨組織で2倍以上の発現増加が見られた遺伝子として約1500個の候補遺伝子がクローニングされた。これらの中から転写因子に着目し、文献的検索を行い、またホールマウントISH法による二次スクリーニングを行い、最終的にFoxC1遺伝子に絞り込むことができた。マイクロアレイ解析では、数多くの遺伝子の中から生物学的意義の高い遺伝子を絞り込む作業が最も困難であり研究者の経験や知識が重要となる。興味深いことにヒトでのFOXC1の遺伝子変異は口蓋裂を含む骨格形成異常,さらには歯の発達障害を示すAxenfeld-Rieger症候群を引き起こすことが報告されている。これらの結果は本研究によるアプローチが有効であることを示しており、研究がおおむね順調に進行しているとして評価できる点である。
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今後の研究の推進方策 |
今後はクローニングされたFoxC1遺伝子の機能的役割の解明を中心に研究を行っていくために、以下の実験を計画している。1. 軟骨細胞特異的転写因子FoxC1の発現および機能の解析:胎生期12.5日齢Col2-Venus-TgマウスのMicroarray解析により同定された転写因子FoxC1の発現部位を,In Situハイブリダイゼーション法ならびに免疫染色法により解析する。さらに細胞株,初代培養軟骨細胞およびマウス肢芽細胞を用いたMicromassCultureに,アデノウィルスシステムを用いてFoxC1の過剰発現またはRNAiによるノックダウンを行い,軟骨細胞分化への効果の検討を多角的に進める。軟骨細胞分化の評価は,アルシアンブルー染色または軟骨細胞分化マーカー遺伝子の発現をリアルタイムPCR法により解析することにより評価する。2. 内軟骨性骨化におけるFoxC1による転写ネットワークシステムの解析:内軟骨性骨化過程におけるFoxC1の分子作用メカニズムを明らかにするために,FoxC1が構築する転写ネットワークシステムを明らかにする。PTHrPの発現にはSox9とIHHのシグナル分子Gliファミリーが関与することから(Amano K et al JBC),FoxC1とSox9およびGliファミリーの相互作用に焦点を置いて解析を行う。具体的にはレポーターアッセイを用いてプロモーター活性への効果を転写レベルで検討するとともに,免疫沈降法によりGliファミリーとFoxC1の物理的相互作用を解析する。これらIn Vitroの検討に加えて,FoxC1の生物学的役割をIn Vivoで明らかにする。最終的にはこれら知見を統合的に解釈することにより,内軟骨性骨化におけるFoxC1の機能的役割を明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。特に、平成23年度は数多くの遺伝子から遺伝子を絞り込むために行う遺伝子発現解析のために、切片の受託作成費用が多く含まれていた。スクリーニングは平成23年度で終了しているため、次年度はその他の経費はほとんど含まれないと思われる。次年度は、FoxC1遺伝子の生物学的役割の解析を行うため、FoxC1発現プラスミド生成のための遺伝子工学キット、また軟骨細胞分化過程における遺伝子発現解析のためのリアルタイムPCR試薬などの物品費を中心に研究費を使用する。さらに、日本骨代謝学会およびアメリカ骨代謝学会にて研究発表を行うための旅費も計上している。いずれの学会もトップレベルの学会であり、特にアメリカ骨代謝学会は世界中から骨代謝研究の主要な研究者が集まる学会であり、アメリカ骨代謝学会に参加することにより得られる研究上の学術的なメリットは多い。研究の進行状況によって学術論文を完成させ、英文誌に投稿する予定である。その際の英文校正添削費用として100,000円を計上している。
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