研究課題/領域番号 |
23792123
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 元 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (10432452)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 韓国 / 神経生理学 / 味覚 / TRPV1 |
研究概要 |
島皮質では、味覚、内臓感覚および心血管刺激に応答するニューロンが、吻尾方向に重複して分布している。また、島皮質味覚野には、侵害受容ニューロンが存在することが知られている。従って、味覚野の皮質を垂直に横切り、島皮質味覚野および自律機能関連領野を含む水平断スライス標本を作成し、光学的膜電位測定法を用いて、カプサイシン灌流投与下で、島皮質味覚野第IV層を電気刺激することにより、味覚野で引き起こされた興奮が、自律機能関連領野まで伝播するかどうかテストした。その結果、島皮質味覚野第IV層で引き起こされた興奮は、カラム状の興奮パターンを示し、尾側方向に伝播し、島皮質自律機能関連領野に興奮が広がった。さらに、興奮はオシレーションを伴い、オシレーションが進行するにつれて島皮質自律機能関連領野に興奮が伝播した。また、味覚野および自律神経領野におけるオシレーション活動は、同活動の相互相関の結果から、共に4Hz付近でピークを持ち、これらのオシレーション活動が同期化していることが明らかとなった。以上の結果より、味とは、味覚そのものだけでなく、「歯ごたえ」や「舌触り」、「熱い・冷たい」といった感覚情報や香辛料等による"痛覚情報"と統合されて生じ、その過程で引き起こされる自律神経応答は、島皮質内で吻尾方向に分布する多様なモダリティ(味覚、痛覚、内臓感覚、心血管系化学受容および圧受容)をもった領野間の機能連関の結果、引き起こされている可能性が高い。本研究はこうした考えに学術的根拠を与えるものである。また、本研究により、島皮質における機能連関の詳細が明らかとなれば、大脳皮質における情報処理機構の一端が明らかとなり、本研究の医学的意義はきわめて高い。さらに、香辛料等による味覚の修飾が自律神経系の活性化を引き起こすことが明らかになれば、健康の保持・増進における食品や香辛料の役割が明らかになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私たちが、日常、カプサイシンを含む香辛料食物を摂取すると、発汗や唾液分泌、呼吸数、心拍数の増加などの自律神経反応が生じる。このような自律神経反応は、カプサイシン含有食物の摂取が、カプサイシン感受性求心性神経を活性化し、「痛覚」情報として大脳皮質味覚野(島皮質吻側部)に到達すると、味覚野で痛覚情報と味覚、温冷覚および触覚情報と統合され、その後、尾側に隣接する自律機能関連領野(島皮質尾側部)が活性化され、自律神経反応が引き起こされる可能性がある。そこで、本研究では、(1)島皮質味覚野における侵害受容ニューロンをカプサイシンにより活性化した時に、島皮質自律機能関連領野の活性化が引き起こされるか否か(平成23年度研究計画)、(2)カプサイシンもしくはカプサイシンと食塩水を舌へ提示した時および摂取した時に、島皮質が賦活され、自律神経反応が引き起こされるか否か (平成24年度研究計画)、の2点を調べ、辛味刺激により生じる自律神経反応の神経機構を明らかにすることを目的とした。これまで、光学的膜電位測定法および電気生理学的手法を用いて、味覚野第IV層刺激により誘発された興奮は、オシレーションを伴いながらカラム単位で自律機能関連領野へ伝播することを明らかにし、味覚野と自律機能関連領野との間に機能連関が存在することを示した。また、平成23年度中に予定していた実験のすべてを終了し、これらの研究成果を、現在、学会誌に投稿中である。さらに、平成24年度に予定している実験の一部を既に開始している。自然科学研究機構生理学研究所の共同利用研究機器を使用し、20名の被験者で、脳血流および自律神経活動計測を行いつつ、 舌背にトウガラシエキスおよび塩水を提示し、脳賦活領域および自律神経活動の変化を調べた。現在、撮影した被験者全員のデーターを解析中である。以上から、本研究は、当初の計画通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では、自然科学研究機構生理学研究所(3.0テスラ)の共同利用研究機器を使用し、電磁波(ラジオ波)を用いた脳血流および自律神経活動計測を行いつつ、 舌背の有郭乳頭にカスタムメイドの口腔内装置を用いて、トウガラシエキスを提示し、脳賦活領域および自律神経活動の変化を調べる。これまで、口腔内装置と接続された灌流装置(0.8 - 2ml/s)を用いて、投与した溶液をカスタムメイドの口腔内を通じて舌背に提示することができる実験装置を考案、作成し、すでに20名の被験者で実験を行っている。その結果、辛味刺激により島皮質の賦活が検出された。今後、島皮質における味覚, 内臓運動および心血管反応に関与する領域に興奮伝播が生じているか否かを調べ、自律神経応答との関係を調べる。また、これらの脳賦活領域の興奮強度および興奮範囲が、投与するカプサイシンの濃度および温度依存的に変化するか否かを調べる。さらに、カプサイシンを摂取した後、これらの脳賦活領域の興奮強度および興奮範囲が、摂取量および温度依存的に変化するか否かを調べる。また、平成24年度前半には、引き続き、現在投稿中である光学的膜電位測定法を用いた実験の追加実験を予定している。特にカプサイシンのアンタゴニストであるI-RTXの投与にり、島皮質で引き起こされたoscillation が抑制されるか否かを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なった。しかしながら、研究計画そのものに変更はないため、次年度は、前年度の研究費も含め、当初の予定通りの計画を進めていく。次年度の研究費使用計画の詳細について以下に記載する。<消耗品>平成24年度の前半に、本応募課題の追加実験を平均週2回実施する。消耗品には、一般試薬(細胞外灌流液の調製に必要な試薬、及び、TRPV1受容体・各種イオンチャネル・細胞内酵素等の阻害薬・作動薬)、蛍光試薬(膜電位感受性色素RH414)、実験動物(妊娠ラット/マウス、ラット/マウス成獣、飼料、及び、飼育用ケージ)を含む。<旅費等>研究成果発表のため、国内1回・海外1回の学会参加を予定している。さらに、研究成果を英文雑誌へ投稿する予定である。<謝金>fMRI実験に参加協力する被験者の生理学研究所(愛知県岡崎市)までの往復交通費と謝礼を含む。
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