研究課題/領域番号 |
23792123
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 元 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (10432452)
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キーワード | 国際情報交換 / 韓国 |
研究概要 |
本年度では、自然科学研究機構生理学研究所(3.0テスラ)の共同利用研究機器を使用し、脳血流および自律神経活動計測を行いつつ、 舌背の有郭乳頭にカスタムメイドの口腔内装置を用いて、トウガラシエキスを提示し、脳賦活領域および自律神経活動の変化を調べた。fMRIを用いた先行研究では、味覚刺激(甘味、塩味)や口腔内への熱刺激を行うと、島皮質が賦活されることが報告されている。我々は、カスタムメイドの口腔内装置と接続された灌流装置(0.8 - 2ml/s)を用いて、味溶液を舌背の有郭乳頭に投与する実験装置を考案、作成し実験を行った。カプサイシンを投与する実験では、65μMのカプサイシンを0.5ml投与後、20秒の作用時間を設け、その後人口唾液を用いた味溶液のWash を20秒間隔で5回行った。これを1セットとして2回繰り返し、これらの試行を6セッション行った。0.5M 塩化ナトリウム溶液、および人口唾液を投与する実験では、味溶液投与後20秒の作用時間を設けた後、味溶液のWash として人口唾液を投与し、これを1セットとして6回繰り返し、これらの試行を2セッション行った。実験の結果、味溶液到達時のボタン押しに伴う運動野の賦活が明瞭に認められ、また、味溶液の投与に伴う島皮質の賦活を認めた。20名の被験者でGroup Analysisを行った結果、塩化ナトリウム投与時には島皮質の中央部に賦活が認められたが、カプサイシン溶液投与時には、島皮質の前方、中央および後方部に賦活が認められた。さらにROI Analysisを行った結果、、カプサイシン溶液の投与時には、他の溶液投与時に比べて、有意に強い賦活が島皮質の前方および中央部の左右島皮質に認められた。また、昨年度まで行っていたIn vitro における本研究の結果を本年度The Journal of Neuroscience に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)島皮質味覚野における侵害受容ニューロンをカプサイシンにより活性化した時に、島皮質自律機能関連領野の活性化が引き起こされるか否か、(2)カプサイシン(トウガラシエキス)もしくはカプサイシンと塩化ナトリウム(食塩水)の混合溶液を舌へ提示した時および摂取した時に、島皮質が賦活され、自律神経反応が引き起こされるか否か、の2点を調べ、辛味刺激により生じる自律神経反応の神経機構を明らかにすることを目的とした。(1)については平成23年度にラット脳幹スライス標本を用いて、カプサイシン灌流投与下で、島皮質味覚野第IV層を刺激した時に引き起こされる興奮伝播様式及びその神経機構を二種類の光学的膜電位測定装置を用いて調べた。その結果、島皮質味覚野と自律機能関連領野との間に機能連関が存在し、味覚野第IV層刺激により誘発された興奮は、ネットワークオシレーションを伴いながらカラム単位で自律機能関連領野へ伝播することが示唆された。これらの結果は平成24年度にThe Journal of Neuroscience に報告した。(2)については平成24年度に自然科学研究機構と共同で、カスタムメイドの口腔内装置を用いて、トウガラシエキスおよび食塩水をヒト被験者の舌先および舌背の有郭乳頭前方部に滴下した時および摂取した時の脳賦活領域および自律神経活動をfMRI 装置を用いて調べ、In Vitro で観察した実験結果を支持するような結果が得られ、辛味を認知したときの脳賦活領域を特定でき、島皮質の賦活と自律神経活動の関係が明らかになりつつある。このことから、本研究課題は、おおむね当初の予定通り進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、カプサイシン投与により味覚野と内臓機能関連領野間のネットワーク・オシレーションが約4 Hz の周期で引き起こされ、味覚野と自律機能関連領野間に機能協関があることを報告した( J.Neurosceience, 2012)。しかしながら、通常、摂取したカプサイシンは肝臓で代謝され、生体内には存在しないことから、カンナビノイド受容体の内因性アゴニストであり、TRPV1 受容体の内因性リガンドのアナンダミドもTRPV1 受容体の活性化に関与していることが推定される。一方、肝臓の代謝能を越える程カプサイシンを多量に摂取した場合、島皮質や心臓血管運動中枢である吻側延髄腹外側部(RVLM)へ血行を介して直接作用する経路も否定できない。しかし、TRPV1 刺激が神経細胞におけるNO 産生能を高めることから、心臓血管運動中枢への間接的な影響も考慮する必要がある。味覚機能と内臓自律機能との機能協関が辛味認知の結果によるものか、或いは、血行性の直接や間接作用によるかの鑑別はスライス標本では困難であるが、in vivo 標本やヒト被験者の実験においては検証可能である。そこで、今後は以下の3点について研究を推進する予定である。1) アナンダミド投与が島皮質内の味覚野-内臓感覚運動領野間におけるニューロン発火活動の同期化を誘発し、カプサイシン投与時とは異なる機能協間を生じさせるか否かを、脳薄切標本を用いて調べる。2) カプサイシンの辛味認知そのもの、或いは、その経口摂取のいずれが自律神経反応を引き起こすかを、全動物標本およびヒト被験者を用いて調べる。3)カプサイシンを経口摂取させ自律神経反応が見られた時の島皮質及びRVLM のニューロン活動の関係を、島皮質及びRVLM に慢性記録電極を設置した全動物標本を用いて、自由行動下で調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度では、カプサイシン溶液を投与し、溶液到達時のボタン押しに伴う運動野の賦活と、溶液の投与に伴う島皮質の賦活を認めた。また、20名の被験者でGroup Analysisを行った結果、カプサイシン溶液投与時に、島皮質の前方および後方部に賦活が認められ、さらにROI Analysisを行った結果、、カプサイシン溶液の投与時には、他の溶液投与時に比べて有意に強い賦活が島皮質の両部に認められた。しかしながら、溶液投与によるAttention やTactile sensation による島皮質の賦活領域と味刺激による島皮質の賦活領域との区別ができていないため、計画を変更し、人工唾液と食塩水投与時に賦活した領域を特定し、味刺激による島皮質の賦活領域を同定することとした。このため、SPMを用いた時系列解析と成果発表および論文の投稿を次年度に行うこととし、未使用額はその経費にあてることとしたい。
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