研究課題/領域番号 |
23792127
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高 靖 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (40585882)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 開口分泌 / リン酸化 / SNARE / SNAP-25 / PKA / PKC / ホスファターゼ |
研究概要 |
我々は独自に見いだした新規分子 PRIP がキナーゼやホスファターゼといったリン酸化制御に関わる分子群を各々の作用部位近傍にリクルートするという役割の解明を目指している。本研究では、「開口分泌」調節の分子基盤における PRIP の持つタンパク質リン酸化制御機能の役割解明を目標とする。平成23年度は当初の計画に従い、本研究に用いる各種遺伝子組換えコンストラクトの調製から実験をスタートし、開口分泌実験のモデルとしての PC12 細胞の各種 PRIP 変異体を安定的に発現する細胞株の調製も行った。これらが順調に進んだので、調製した細胞を用いた実験にも着手した。すなわち開口分泌における膜融合過程に必須の分子複合体を構成する SNAP-25 に着目し、そのリン酸化を介した開口分泌の修飾に PRIP が関与する可能性について検討した。精製タンパク質を用いた試験管内実験から、PKA でリン酸化された SNAP-25 の脱リン酸化はタンパク質ホスファターゼのうち、主に PP1 が担っており、その過程は PRIP によって調節されることがわかった。上述の細胞をフォルスコリンやホルボールエステル処理すると SNAP-25 はリン酸化され、PRIP はその脱リン酸化過程を促進した。またこのときのノルアドレナリン分泌量は SNAP-25 のリン酸化レベルとよく一致していた。さらに免疫沈降実験も行い、PRIP による SNAP-25 のリン酸化レベルの修飾には PRIP、PP1、SNAP-25 複合体の形成が必要であることもわかった。以上の結果は、PRIP が PP1 を介して SNAP-25 のリン酸化状態を修飾し、よってタンパク質リン酸化シグナルによる開口分泌の調節に関与することを示唆する。初年度の成果は本研究における仮定を肯定するものであり、次年度以降の研究の展開を期待させるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者らは独自に見出した新規分子 PRIP がリン酸化制御を基盤とする細胞機能にどのように関わるのかを解明することを目指しており、そのために本研究では、現在集中的に解析している開口分泌におけるリン酸化制御に PRIP がどのように関わるのかを明らかにすることを目的としている。現在までに、モデルである PC12 細胞を用いた系で、PRIP がタンパク質リン酸化シグナルを介した開口分泌調節機構の修飾に関与することを示し、論文掲載にまで至ったため、計画は予想以上に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に PC12 細胞をモデルとした系で PRIP が PP1 を介した SNAP-25のリン酸化状態の修飾を通じて開口分泌の調節に関与する証拠を得た。今後は、PRIP によるタンパク質リン酸化シグナルの修飾について、より詳細な機構の解明を目指す。すなわち PRIP には PP1 のみでなく PP2Aも結合するので、これら複数の脱リン酸化酵素と PRIP との相互作用の様子について精製タンパク質を用いた試験管内での結合実験等で明らかにする。また PC12 細胞をモデルとして得られた結果について、より生理的な状態で検証する。すなわち野生型及び PRIP 欠失マウスから副腎由来初代培養細胞を調製し、SNAP-25 のリン酸化レベルや開口分泌の比較を行う。このとき得られる細胞数はかなり限られるので、細胞株で行ったような生化学的実験以外に、より少ない細胞でも行える電気生理学的手法の利用等を考えている。本研究の成果は将来的には、PRIP のリン酸化制御に関わる役割を普遍的な細胞内シグナリングにおけるタンパク質リン酸化制御のリレーに広げたい。そして、PRIP-KO マウスが示す他の表現型(例えば骨代謝の異常や抑制性神経伝達受容体の機能異常など)について、その基盤としてのリン酸化制御の可能性についても研究を進展させたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は初年度に確立したモデル系に加えて、教室で所有する PRIP 欠失マウスも用いて実験を行う。開口分泌やリン酸化を調べる方法は同じなので消耗品のほとんどを占める試薬類は初年度と同程度必要となる。また得られた成果を学会及び論文として発表するための旅費及び出版費(その他)を使用する。
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