我々が見いだしたphospholipase C-related but catalytically inactive protein(PRIP)がリン酸化制御に関わる分子(ホスファターゼとキナーゼ)の働きを調節する仕組みを解明する事を目指した。特に「開口分泌」のリン酸化調節におけるPRIP役割解明を目標とした。 組換え体として精製したPRIP、PP1 (protein phosphatase)、PP2Aを用いた試験管内結合実験を行い、PP1とPP2A両方とも PRIPと結合するが、両者が混在する時には結合は相互に排除的であることが分かった。A-キナーゼによってPRIPをリン酸化するとPP1との結合は減弱化し、反対にPP2Aとの結合は増加した。これらの分子を細胞に強制発現を行い、細胞の再構成系での実験を行った。細胞の抽出物を抗PRIP抗体で沈降させて混在するPP1やPP2Aの量を定量した。定常状態では PRIP に混在してPP1もPP2Aも存在した。細胞をforskolinで刺激するとPRIPと共沈降するPP1量は減り、PP2Aは増加した。ついで動物個体を用いた実験を行った。イソプロテレノールをマウスの腹腔内注入して、脳抽出物を抗PRIP抗体で沈降させて混在したPP1ならびにPP2Aを定量した。予測通りでPP1の減少とPP2Aの増加を認めた。このようにPRIPを中心とした2種類のホスファターゼの相互に排除的な結合、加えてリン酸化による結合ホスファターゼのスワッピングが生細胞や動物個体でも確認された。前年度に得たSNAP-25のリン酸化調節と開口分泌におけるPRIPの役割と相俟って開口分泌のリン酸化調節の基盤が明確になってきた。
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