咀嚼における協調運動は、脳幹に存在する咀嚼のパターンジェネレーターと呼ばれる神経回路によって形成されるとされているが、その詳細は明らかでない。本研究では三叉神経運動核および顔面神経核に出力を送る顔面神経核背側網様体(RdVII)のニューロンが、咀嚼筋および表情筋の協調運動に関与するか検証した。 初年度は、RdVIIで三叉神経運動核(MoV)および顔面神経核(MoVII)に同時に出力を送る領域を、光学的膜電位測定法およびパッチクランプ法を利用して検索した。生後0-3日齢のWistar系ラットから作製した矢状断脳幹スライス標本において、RdVIIの吻側部の電気刺激により、MoVおよびMoVIIに同時に光学的応答が確認された。そこでMoVおよびMoVIIに存在する閉口筋運動ニューロン(MMN)と開口筋運動ニューロン(DMN)、表情筋運動ニューロン(FMN)から同時にパッチクランプ記録を測定し、RdVIIの電気刺激で誘発される応答のタイミングを検証した。RdVIIの電気刺激により各運動ニューロンでシナプス後電位が同時に記録されたが、応答が誘発される閾値が異なったことから、各運動ニューロンに出力を送るプレモータニューロンはそれぞれ別に、近接して存在することが示された。 本年度は、各運動ニューロンに出力を送るプレモータニューロンがRdVIIでどのように分布しているのか検証した。caged glutamateのレーザー照射によってグルタミン酸を投与し、照射部位に存在する細胞体のみを選択的に興奮させる手法を用いた。この結果、FMNのプレモータニューロンはRdVIIの腹側かつ吻側に、MMNのプレモータニューロンはDMNのプレモータニューロンよりも背側に分布することが示された。 RdVIIニューロンの種類によって分布領域が異なることは、各運動筋の協調運動制御に役立つ可能性が考えられる。
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