研究課題
Wnt非古典経路を活性化するWnt5a-Ror2シグナルが破骨細胞のアクチンリング形成にどのような役割を果たすか解明するため、下流の標的分子を同定することを目的としている。昨年度までの研究で、低分子量Gタンパク質であるRho及びRacがWnt5a刺激により活性化されることを明らかにしていた。そこで、今年度は当初予定していた網羅的な解析ではなく、Rho及びRacに絞った解析を行うことにし,以下のことを明らかにした。 1.Ror2を欠損した破骨細胞をWnt5aで刺激してもRho及びRacの活性化は生じなかった。2.Ror2を欠損した破骨細胞に恒常的活性型のRhoまたはRacをアデノウイルスを用いて過剰発現したところ、恒常的活性型のRhoを発現させた場合のみ、アクチンリングが形成され、骨吸収も起こった。以上の結果より、破骨細胞においてWnt5a-Ror2シグナルはRhoの活性化を介してアクチンリング形成を制御していると考えられる。 次に、Wnt5a-Ror2シグナルの下流でRhoの活性化に関わる分子を探索した。これまでに、Formin homology (FH)ドメインをもつタンパク質であるdishevelled associated activator of morphogenesis (Daam)1という分子が、Wnt非古典経路におけるRhoの活性化において重要であることが知られている。そこで、破骨細胞におけるFHドメインを含むタンパク質の発現を網羅的に解析し、Daam2, FMNL2, FMNL3を同定した。現在、これらの分子がアクチンリング形成において果たす役割を解析中である
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、網羅的解析によってWnt5a-Ror2シグナルの標的分子を探索、同定する予定であったが、予備的な実験により有力な候補を見出すことができたため、その分子に着目して研究を進めた。それにより、Wnt5a-Ror2シグナルの下流でアクチンリング形成に関与する分子を一つ、候補となる分子を複数同定することができたため、目的はおおむね達成できたと考えている。
1.FHドメインをもつ分子のうち、Wnt5a-Ror2シグナルの下流でRhoの活性化に関与する分子を同定する。アデノウイルスを用いて各タンパク質の遺伝子に対するshRNAを発現させ、Rhoの活性化が抑制されるか、アクチンリング形成が阻害されるか、を明らかにする。2.1.で同定した分子の過剰発現により、Ror2を欠損した破骨細胞でアクチンリング形成が生じるかを調べる。3.Wnt5a及びRor2の成熟破骨細胞における役割を解明するため、破骨細胞特異的遺伝子欠損マウスを作製し、骨量を調べる。3.Rhoの下流で、アクチンリング形成に関与するタンパク質の同定を試みる。Rhoの下流で働く分子としてRhoキナーゼ(ROCK)が知られているが、ROCK阻害剤を用いた予備的な研究では、アクチンリング形成は抑制されなかった。そのため、その他の分子が重要である可能性を考えている。
shRNA発現用のアデノウイルスを構築するために、shRNAの配列をデザインし、オリゴDNA合成を業者に委託する。アデノウイルスベクター作成用のキットを購入する。また、過剰発現用のベクターを構築するためのキットを購入する。これらのベクター作成の過程で必要になる、大腸菌培養に必要な器具及び試薬、遺伝子組み換えに必要な制限酵素を購入する。shRNAにより目的タンパク質の発現が低下しているか、また、過剰発現により目的としているタンパク質の発現が増加しているかを調べるためにウエスタンブロットを行う。必要な抗体及び検出試薬を購入する。破骨細胞特異的遺伝子欠損マウスを維持するためにケージ、床敷き及び滅菌済み餌を購入する。Rhoの下流で働くタンパク質の候補を調べるためにRT-PCR法を用いる。それに必要なRNA精製キット及びPCR用のプライマー、酵素及びプレートを購入する。
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