研究課題/領域番号 |
23792136
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研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
乾 千珠子 (山本 千珠子) 大阪歯科大学, 歯学部, 助教 (00419459)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 加齢 / 味覚嗜好性 / 脳 / 味細胞 / 神経 |
研究概要 |
加齢に伴う味覚嗜好性の変化を明らかにすることを目的とし、各成長段階における味覚嗜好性の変化について行動学的手法および免疫組織化学的手法により比較・検討を行った。本年度は特に加齢に伴って味覚嗜好性がどのように変化するかについて行動学的実験を重点的に行った。実験動物としてSD雄性ラットを用い、生後3-6、8-11、17-20および34-37週齢のそれぞれ4群を実験群とした。二ビン法により異なる味質(甘味、酸味、苦味、塩味、うま味)を呈する溶液の摂取量を測定し、各溶液の嗜好率を算出した。その結果、週齢の増加に伴って、0.3 M ショ糖の嗜好率が低下する傾向がみられたが、有意な差はみられなかった。一方、0.5 M ショ糖では、34-37週齢群の嗜好率は、3-6週齢群または8-11週齢群の嗜好率と比較して有意に低下した。0.1M グルタミン酸ナトリウムについては、34-37週齢群の嗜好率は、3-6週齢群または8-11週齢群の嗜好率と比較して有意に低下した。また、0.3 mM 塩酸キニーネでは、週齢の増加に従い嗜好率が上昇する傾向がみられたが、有意な差はみられなかった。一方、0.03 mM 塩酸キニーネについては、34-37週齢群の嗜好率は、3-6週齢群および8-11週齢群の嗜好率と比較して有意に高くなった。塩化ナトリウムまたは塩酸については、週齢間で嗜好率に有意な差はみられなかった。本実験から、甘味、うま味および苦味に対する味覚嗜好性は加齢により変化することが明らかとなった。これらの味質は、II型味細胞に受容体が認められる点で共通しており、加齢による味覚嗜好性の変化の原因は、末梢の味覚受容が関与している可能性も考えられる。それゆえ、平成24年度では末梢および中枢の味覚情報伝達経路の両側面から詳細に検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の実験計画では、はじめに週齢による味覚感受性の違いについて行動学的手法を用いて検討し、次に、味細胞における味応答性蛋白質の発現量の週齢間での相違について、免疫組織化学的手法を用いて検討することを計画していた。行動学的手法を用いた実験では、生後3-6、8-11、17-20および34-37週齢のそれぞれ4群の実験群にわけ、二ビン法による5基本味(甘味、酸味、苦味、塩味、うま味)の味溶液に対する嗜好性の評価を行った。その結果、甘味やうま味の嗜好性が低下する一方、低濃度の苦味においては、週齢の増加に伴い嗜好率が上昇するという結果を得た。これまでの研究において、甘味またはうま味については加齢が影響することは知られていた。一方、苦味については検討した先行研究は少なく、また苦味が週齢の増加に伴って嗜好性が上昇するという報告はない。これらのことからも、本研究の実験手法は単純ではあるが、世界的に見ても味覚の機能について新しい知見を得たものと考えられる。 また、本実験の結果から、週齢の増加に伴って嗜好性に相違がみられた味質である甘味、うま味および苦味は、II型味細胞に受容体が認められる点で共通していたことから、興味深い結果を得ることとなった。従来、加齢に伴う味覚嗜好性の変化は、認知機能の低下が主な原因の一つに挙げられていた。しかし、本研究の結果は、加齢に伴う味覚嗜好性の変化が末梢の味細胞の受容機構の変化による可能性を示した結果となった。平成23年度の計画としては基盤となる結果が得られたことから、おおむね順調に実験が遂行されたものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
加齢に伴い味覚嗜好性に変化がみられた甘味、うま味および苦味の3種の味質は、II型味細胞に受容体が認められる点で共通していた。一般的に、加齢による味覚認知への影響は、中枢での機能低下が原因であるとの見方が強かった。しかし、我々の実験の結果から、加齢における味覚嗜好性の変化には、末梢の味覚受容が関与している可能性も考えられ、当初計画していた免疫組織化学的手法による味細胞の形態観察に加え、さらに詳細な検討を行う必要性があると考えた。 そこで、平成24年度の実験計画では、行動学的実験で採取した舌組織から有郭乳頭を含む舌組織切片の味細胞内で発現する蛋白質(G α-gustducin, PLCb2, NCAMなど)を、免疫組織化学的手法を用いての解析を行う。しかし、結果として加齢による変化が味細胞でみられなかった場合、次に考えられる部位として、味細胞から中枢に至る神経経路にあると考えられる。このような予測結果と異なる場合の対応策として、電気生理学的手法用いて舌咽神経または鼓索神経から味刺激に対する神経応答を記録し、加齢に伴う味覚の応答特性についての検討を加える。 平成24年度の計画では、超高磁場MRIを用いた脳の組織学的解析も計画している。加齢に伴う脳の構造組織学的な違いを明確にすることも重要であると考え、MR撮像による構造画像および拡散強調画像を用いての神経線維の走行について、加齢による脳構造の相違を3次元的に解析する。特に味覚情報伝達経路を中心とした部位について解析を進め、行動学的実験の結果と合わせ、形態と機能との関連性を検討し、加齢による味覚嗜好性の変化を生じる原因の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では、平成23年度に行った実験で採取した舌および脳を用いて組織解剖学的解析を中心に行う。この実験に用いる免疫組織化学的手法による抗体などの薬品にかかる実験費用(60万円)を計上する。実験の結果は、平成23年度の行動学的実験の結果と合わせ、国際雑誌に投稿する予定である。作成した学術論文の英文校正費用(10万円)および投稿費用(5万円)を計上する。 本実験ではさらに、電気生理学的手法用いて舌咽神経または鼓索神経から味刺激に対する神経応答を記録し、中枢までの伝達経路での味質応答特性の相違についての検討を加える計画である。そのため、電気生理学実験で用いる実験動物費用(4万円)および記録用電極の購入費用(6万円)を計上する。超高磁場MRIを用いた脳の三次元的構造解析の実験で用いる実験動物費用(4万円)を計上する。また、平成24年度における実験を学会(日本味と匂学会および歯科基礎医学学会)に参加し、研究結果を発表する。その旅費を計上する(6万円)。また、それらを論文にまとめ、国際雑誌に投稿する。その際の英文校正費用(10万円)および投稿費用(5万円)も計上する。
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