本研究は口腔がんにおいて、がん幹細胞を含む腫瘍を構成する全ての細胞を根絶することを目的としている。口腔癌細胞株HSC-3からシングルセルクローニング法を用いて、シスプラチンに対する抵抗性が異なる数種類の細胞株を得た。それぞれの細胞からcancer stem cell(以下CSC)を取り出すためにside population(以下SP)に相当する細胞群をFACS解析にて抽出した。申請者がシングルセルから細胞株を樹立した際には、播種したシングルセルの約10%から細胞株を樹立できたが、SPに相当する細胞は解析した細胞の0.6%であり予想に反して少なく、また細胞株間での差はなかった。このことは、培養細胞においてシスプラチンの抵抗性はSP、つまりCSCの細胞の数に依存しているわけではないことと、シングルセルクローニング細胞がSP細胞とは異なることを示唆している。CSCは、薬剤の細胞外への排出能が優れていることから、抗癌剤に抵抗性を示すことが知られている。そこで、細胞膜に局在し耐性株で強く発現するタンパク質のうち、PTP4A1に着目して研究を進めた。実際にEGFPタグを付加したPTP4A1は細胞膜に局在した。PTP4A1を強制発現させた細胞はシスプラチンに抵抗性を示し、これらの細胞はAKTの活性が亢進していた。またこれらの細胞をシスプラチンで処理するとPARPの活性が低下した。逆にPTP4A1をsiRNAにて発現を抑制すると、シスプラチンに対する感受性が増した。これらのことからPTP4A1の高発現している腫瘍ではシスプラチンに対して抵抗性を示し、またその発現を抑制するとシスプラチンの効果が増大することが示唆された。
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