本研究は、T1/2舌癌症例において、造影CTで認められる顎舌骨筋の部分欠損(以下、顎舌骨筋欠損)は舌・口底から顎下隙への転移経路ではないかと考え、顎舌骨筋欠損の割合、頸部リンパ節転移の関連、顎舌骨筋欠損の内部を通過するリンパ管の有無等を検索し、画像検査で指摘しうる顎舌骨筋欠損が舌癌の顎下リンパ節への転移を予測する指標となり得るか否かを検討するものである。 まず舌癌T1/2症例44例において、顎舌骨筋欠損の有無と顎下リンパ節転移の有無の関連を検討した。術前の造影CTで、顎舌骨筋の部分的な断裂あるいは顎舌骨筋を貫通する血管構造が認められたものを顎舌骨筋欠損ありと判断し、欠損の割合について検討した。また頸部リンパ節転移のみられた症例については顎下リンパ節転移の有無を検討した。その結果、患側に顎舌骨筋欠損がみられたのは44例中の61.3%であり、そのうちリンパ節転移ありの症例では66.6%、転移なしの症例では57.7%に顎舌骨筋欠損がみられ、リンパ節転移の有無と顎舌骨筋欠損の有無の間に統計学的な関連はみられなかった。一方、「リンパ節転移あり」の症例のうち、顎下リンパ節への転移があった症例では、全例に顎舌骨筋欠損がみられ、造影CTで指摘しうる顎舌骨筋欠損と顎下リンパ節転移は統計学的な関連がみられた。 平成24年度は、口腔領域の手術の既往がない解剖体9体(18側)において、顎舌骨筋欠損の有無について検討した。11側(61.1%)で顎舌骨筋欠損がみられ、そのうち5側(45.5%)に管腔構造が認められた。摘出した管腔構造に対する組織学的な検索では1側においてリンパ管と考えられる構造が認められた。 以上より、画像検査で指摘しうる顎舌骨筋欠損は顎下リンパ節転移と関連するが、舌から顎下部へ向かうリンパ管が、この欠損の内部に存在するかどうかについては、更なる検討が必要であると考えられた。
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