研究課題/領域番号 |
23792146
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
武富 孝治 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (10553290)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | MAPK 経路 |
研究概要 |
Ras-MAPK 経路は細胞増殖/分化を司る重要なシグナル伝達経路で、殊に癌においてその制御は大変重要である。今回、その MAPK 経路によって誘導される Negative Feedback 因子 Sprouty の舌癌における増殖/転移抑制機構に着目し、研究を開始した。 まず、口腔扁平上皮癌細胞株 SQUU-A 細胞株(非転移株)と SQUU-B 細胞株(転移株)における Sprouty の発現を調べるため、SQUU-A,B 各々の細胞を 上皮成長因子(EGF)および線維芽細胞成長因子(bFGF)で刺激し、mRNA レベルでの発現を調べた。その結果、Sprouty2 は SQUU-A,B 細胞において、EGF と bFGF 各々の刺激で同程度の mRNA が誘導された。また、Sprouty4 は SQUU-A 細胞では、EGF・bFGF 両刺激においてその発現が誘導されたが、SQUU-B 細胞では EGF 刺激においてのみ発現が誘導された。 次にこの MAPK 経路で誘導される Sprouty の癌細胞における影響を調べるため、まず human Sprouty2, Sprouty4 各々の Plasmid vector を TA クローニングを用いて作成し、SQUU-A,B 細胞に強制発現させ、EGF・bFGF で刺激して、MAPK (ERK1/2) の活性化および Akt/PKB の活性化を western blot を用いて調べた。その結果、Sprouty2 は SQUU-B 細胞における ERK1/2 のリン酸化を bFGF 刺激下において強く抑制した。一方で SQUU-A 細胞および Akt/PKB のリン酸化にはほとんど影響を与えなかった。さらに同様の実験を Sprouty4 の強制発現系においても行った結果、Sprouty2 の場合と同様の結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画よりも若干後れをとった最大の理由は、本研究で使用する細胞株 SQUU-A と SQUU-B の細胞性質の確認に時間を要したためと考える。それぞれの細胞を継代していく中で、転移株である SQUU-B の方が増殖スピードが遅かったため、もう一度それぞれに特異的な遺伝子発現を再確認するところからスタートした。 また、予定していた Plasmid vector の作成がなかなかうまくいかなかったため、当初予定していたウイルスベクターによる遺伝子導入を強制発現の系で行ったため、遺伝子導入効率のよい方法、すなわちリン酸カルシウム法やリポフェクション法などいくつかを実験的に試さねばならなかった点がやや遅れる原因となった。 遺伝子の mRNA レベルでの発現においては、最適なプライマーを設定し直すことが数回あったことも若干の遅れにつながったと考える。 さらに、Western blot 解析を行うに当たり、細胞の回収をトリプシンで細胞接着を剥がしてから回収していたが、この際、細胞内の MAPK 経路に影響が出て検出されないことがあった。これに関しては Lysis buffer をシャーレに加えて、セルトレーナーで回収することにより、トリプシンを使用せず回収することが最適な結果を得るに必要だと判明した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、舌癌の細胞株に Sprouty ファミリーが発現しており、それが FGF など チロシンキナーゼ型受容体の下流にある MAPK 経路を介して誘導されていることが分かった。 一方で舌癌が高率にリンパ行性転移をすることが知られているため、現在、Sprouty/Spred を強制発現させた細胞における上清を用いて、リンパ管転移に関連する VEGF-C (血管上皮成長因子-C) の発現、ならびに MMP-2,9 の発現を ELISA を用いて測定し、癌の浸潤・転移における Sprouty/Spred の作用について研究を進めていく予定である。 さらには、今後 Sprouty ファミリーの遺伝子欠損マウス (KO マウス)も使用して、生体側における Sprouty ファミリーの抗転移作用を検討すべく、同 KO マウスの戻し交配を併せて行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に行った in vitro の実験系でまだ詰めなければならない部分が多々あるため、主に実験の試薬や消耗品にその多く(80% 近く)を費やす予定としている。そのため大型の機器等は購入せず、実験消耗品に当てる。 一方で初年度に参加しなかった国内・外の学会に積極的に参加することで、他の研究室の手技や技法を本研究に取り入れ、また的確な意見をもらうことを予定している。
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