研究課題/領域番号 |
23792146
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
武富 孝治 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (10553290)
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キーワード | Sprouty |
研究概要 |
本研究は MAP キナーゼ経路制御因子 Sprouty2 による 舌癌の増殖・転移抑制機構の解明のため、FGF - MAPK 経路を中心に解析を行ってきたが、舌癌の組織型である扁平上皮癌の増殖機構に関して、TGF-β シグナルも非常に重要な働きをしていることが知られている。この TGF-β シグナルは MAPK 経路ともクロストークすることが知られているが、Sprouty2 がこの TGF-β シグナルヘ与える影響については不明な点が多い。 そこで本年度は、TGF-β スーパーファミリーの一つである BMP - Smad 経路を介した細胞増殖・分化における Sprouty2 の作用について解析を行った。 骨肉腫細胞株 SaOS-2 にリポフェクション法にて Sprouty2を強制発現させ、BMP-2 刺激下のシグナル伝達分子 Smad1/5/8 に及ぼす Sprouty2 の影響を調べたところ、Sprouty2 強制発現により、 Smad1/5/8 のリン酸化が抑制された。 また BMP-2 刺激によって発現誘導される細胞分化マーカー Runx2、ALP、osterix、osteocalcin の発現をリアルタイムPCR 法にて解析したところ、bFGF および BMP-2 刺激により Runx2、ALP、osterix、osteocalcin の発現誘導が促進したが、Sprouty2 強制発現によりこれら分化マーカーの発現が抑制された。 以上の結果より、Sprouty2 が FGF シグナル伝達経路のみならず、TGF-β スーパーファミリー、BMP シグナル伝達経路のネガティブフィードバック因子として作用し、SaOS-2 の増殖・分化を抑制的に制御していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、Sprouty2 は MAP キナーゼ経路によって誘導され、FGF などの増殖因子による MAPK (ERK1/2) のリン酸化を抑制することから、MAP キナーゼ経路に限局した癌の制御機構の解明で計画していた。しかしながら、癌の細胞内シグナル伝達には MAP キナーゼ経路のみならず、TGFβ シグナルも非常に重要な働きをしていることが示唆され、Sprouty2 による新規のシグナル制御機構を in vitro で解明することが新たな展開へつながると考え、これを実行したことにより当初の計画からやや遅れることとなった。 in vivo の実験に関しては、ヌードマウスに癌細胞を移植を考えたが、この場合、細胞に遺伝子導入することにより癌細胞の性質自体が変化し、これらの転移能を見ることにつながる。一方で、宿主側の遺伝子変化により、移植された癌細胞へリンパ管の新生がどのように起こるかを見るためには、宿主側の Sprouty2 の遺伝子発現有無で判断せねばならず、これには Sprouty2 KO マウスの存在が必要不可欠である。飼育していた Sprouty2 +/-(ヘテロ)マウスを用いて交配を行い、生まれた仔マウスの遺伝子型を PCR 法により確認していたが、いっこうに Sprouty2 -/- (KO) が生まれてこない時期が長期間あった。原因の詳細は不明であるが、血統を濃くするためにバッククロスをすすめると、KO マウスが生まれにくくなることが他の遺伝子でも知られており、その際は一旦 ICR マウスと交配させ、新たなヘテロマウスを作成することが勧められている。これを実行すべく、準備をするのに時間を割いたことにより、予定よりも遅れた達成度となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、Sprouty2 は舌癌の細胞株に発現しており、FGF などの増殖因子刺激による MAPK 経路の活性化を抑制して、細胞増殖を抑制するのみならず、TGF-β シグナルによる Smad の活性化を抑制して細胞増殖を負に制御することが判明した。今後は癌の転移機構に焦点を絞って研究を行っていく予定である。 転移に関わるリンパ管新生には VEGF シグナルが関係していることから、 Sprouty2 の VEGF 産生に対する影響を ELISA 法を用いて解析する。 in vivo の実験では、当初の予定にあったヌードマウス舌に Sprouty2 発現細胞株と非発現細胞株を移植して、頸部リンパ節への転移を組織学的に解析する。一方で、宿主側のリンパ管新生も癌の転移には大きく関わってることから、これを解析するために、癌細胞によって誘導されるリンパ管新生を Sprouty2 KO マウスを用いて野生型マウスと比較、病理組織学的に解析する。 また、実際の癌患者の転移リンパ節において転移した扁平上皮の Sprouty2 発現頻度を組織学的に解析し、原発巣の悪制度分類度と比較して、Sprouty2 が転移機構とどれくらい相関しているかをしているかを統計学的に解析する。 最後にこれまでの成果を報告すべく、各種学会に積極的に参加して、多くの研究者からの意見を参考に論文を作成、投稿を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、in vivo の実験が主体となるため、マウスの購入、管理・維持のために使用する。解析に関しては、これまでの遅れを取り戻すため、組織学的解析に絞って同様の実験系を多く行うこととしている。組織学的解析には顕微鏡が必須であるが、これは購入済みであるので、画像処理のための各種システム(デジタル解析するためのカメラ、ソフト、付属 PC、ディスプレイなど)の購入もしくはリースに研究費を使用する。さらには切片を作成するため、受託業者に依頼することも予定している。 このように、各種物品の購入(機器、消耗品を含む)のため、研究費の 70% 以上は使用する計画である。 また、これまでの研究結果を発表するために各種学会・研究会に参加する旅費にも使用するため、旅費に 15% 前後、最後に論文作成する際は、その校正さらには Accept された場合の投稿料に 15% 前後 の研究費を使用する計画である。
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