悪性腫瘍内では新生血管形成が盛んに行われており、この新生血管は腫瘍増生のみならず転移の機会を増やしている。この腫瘍新生血管形成を抑制することが、腫瘍の減少といった直接的な抗腫瘍効果をもたらすだけでなく血行性遠隔転移も抑制できると考える。本研究ではヒストン脱アセチル化阻害剤(VPA)およびDNAメチル化阻害剤(Hy)を用い血管新生抑制因子の一つである血管内皮細胞成長抑制因子(VEGI)とそのレセプターであるdeath receptor3(DR3)を介した腫瘍血管新生阻害によるヒト骨肉腫の再発・転移を抑制することを目的とする。 VPAはヒト骨肉腫細胞株に対してVEGIの発現を有意に増加させ、同様にそのレセプターであるDR3発現を増加させた。しかしVEGI/DR3結合に拮抗するdecoy receptor 3 (DcR3) の発現には影響を及ぼさなかった。更に骨肉腫VEGI強発現株ではapoptosisを有意に誘導し、強発現株にVPAを作用させるとその効果は増強した。 ヒト毛細血管内皮細胞株(HMVE)に対するVPAの効果を検討した結果、VPAは直接増殖能には影響を与えなかった。またVEGIの発現を増加させたが、DR3発現には有意差を認めなかった。DcR3発現は減少傾向を示したが有意差を認めなかった。更にHMVEをVPA作用後骨肉腫細胞株培養液で培養すると管腔形成を有意に阻害した。 これらのことからVPAはヒト骨肉腫においてVEGI/DR3を介した直接的腫瘍増殖抑制効果のみならずVPAによって発現が増強された腫瘍(由来)産生VEGIがヒト血管内皮細胞に対する血管形成抑制効果(間接的腫瘍新生血管形成)を有することが示唆された。よって本研究はこれまで報告してきた抗腫瘍免疫細胞に対する感受性亢進作用との相加・相乗効果により腫瘍をより効率よく排除し、再発・転移の抑制が可能であると考える。
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