接着技術の進歩によって、歯質の削除を最小限の侵襲に留めることの必要性が強調されている。一方、窩洞を狭小化することのみに注意が払われると、感染歯質の取り残しなどの問題も生じるところから、予後良好な修復処置を行うためには、感染歯質を確実に除去しながらも、可及的に健康歯質を残すための明確な指標が必要となる。しかし、臨床家の多くは、齲蝕の除去に際して術者の経験などの主観に頼るところが大きく、客観的な齲蝕除去の指標は存在しないのが現状である。これらの臨床背景のもと、チェアサイドで非侵襲的かつ簡便に応用できる客観的な齲蝕象牙質除去法を確立することを目的として、齲蝕象牙質除去において重要となる歯髄腔までの距離を定量化し、客観的な測定が可能か検討した。 咬合面齲蝕を有するヒト抜去大臼歯に対して、齲蝕検知液を指標として、スチールバーおよびスプーンエキスカベータ-を用いて齲蝕除去を行い、齲蝕除去の各過程における歯髄腔までの距離を、OCTを用いて測定するとともに、レーザ顕微鏡を用いて歯質の縦断面を撮影し、得られた両測定値を比較、検討した。 その結果,齲蝕除去時の残存歯質厚径の測定は、研削深さが浅いあるいは中程度の場合、比較的表層での断層像の観察は可能であるものの、残存象牙質と歯髄腔を識別することは困難であり、測定不能であった。しかし、研削深さが深くなるにしたがって、残存象牙質と歯髄腔を識別することが可能となり、これによって得られた残存歯質の測定値はレーザ顕微鏡による縦断面像からの値と近似していた。 以上の結果から、 OCTを用いて齲蝕象牙質あるいは齲蝕影響象牙質の状態を把握しながら、残存歯質厚径の測定が可能であることが判明した。今後、プローブ形状を変更するなどの改良によって、より詳細な齲蝕象牙質の状態を観察することが可能であり、その臨床有用性が示唆された。
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