研究課題
本年度は歯髄組織への熱刺激の及ぼす影響や耐性向上機構の検討と,歯冠部象牙質の誘導方法について研究を行った.1)低栄養条件下で熱刺激が歯髄細胞へ与える影響:熱刺激は生活歯に切削処置を行う上で大きな歯髄障害要因となるため,歯髄や歯髄由来細胞へ熱刺激が与える影響については複数の報告がなされている.しかし,生活歯の窩洞形成時には通常血管収縮剤を含有した局所麻酔薬による浸潤麻酔が用いられ,これは歯髄の虚血をもたらすことが報告されている.我々の目指す象牙質―歯髄複合体再生療法においては冠部の感染歯質及び歯髄組織を切削除去する必要があり,その際に根部歯髄を健全に保つ必要がある.そのため,浸潤麻酔下の虚血による低栄養状態において熱刺激が歯髄細胞に与える影響について報告した(J Endod).その結果,低栄養条件下においては熱刺激の歯髄への影響の増大が示唆され,再生処置に先立つ断髄法についての知見を得ることができた.2)歯髄細胞の耐性向上方法の改善:以前,41℃・12時間の軽度熱刺激でHSP25,60,70,90発現と細胞周期停止を誘導し,熱耐性を誘導可能であることを報告しているが,さらに効率的な耐性誘導を図るための研究を行った結果,41℃・20分の熱刺激後に6時間経過すると熱耐性が誘導され,その際には特にHSP70が誘導されていることが確認できた(日歯保存学会).この結果より,歯髄耐性誘導に用いる予定のHSP70誘導剤(GGA等)の有用性も確認できた.3)BMP-2の象牙芽細胞誘導機構について:FGF-2による歯髄再生後,上部に象牙質再生を誘導する必要があるが,この際に用いるBMP-2の有用性を報告した(Int J Dent).その結果,歯髄由来細胞の象牙芽細胞様機能がBMP-2により高められることが確認され,我々の目指す象牙質―歯髄複合体再生療法に適用するための知見を得ることができた.
2: おおむね順調に進展している
我々の目指している象牙質―歯髄複合体再生療法は,1)歯髄の耐性を高めた状態で断髄を行い,浸潤麻酔や切削等による影響を減少させ,根部歯髄を可能な限り健全な状態で保存する,2)除去した冠部歯髄を再生させる,3)歯髄表層に細管構造を有する理想的な象牙質を形成させる,以上の3つの段階に分けられる. 本年度は上記のうち特に1)の確立について研究を行う予定としていた.その結果,より臨床条件に近い低栄養条件下での熱刺激の歯髄由来細胞へ与える影響や,耐性誘導薬剤として用いるHSP70誘導剤(GGA,アリモクロモル)の有用性について確認できた.一方,炎症状態にある歯髄を再現するためのLPS等を用いた研究は結果報告に至っていないものの,それに変わり上記3)にかかわるBMP-2の応用の可能性について確認することができた.これらを鑑みると,研究は目的達成へ向けおおむね順調に進展していると考える.
次年度は以下の各項目に主眼をおき,研究を遂行する予定である.1)歯髄の耐性誘導に効果的な条件の検討:in vitroおよびin vivoの研究において,歯髄の炎症状態の再現など,より実際の臨床を想定した条件に近づけた環境下で歯髄に耐性を誘導する方法について詳細に検討していく.具体的には,IL-1, 6など炎症性サイトカインのリコンビナントタンパクを用いて擬似的に炎症状態を惹起した上での耐性誘導機構解明や,効果的な薬剤の使用方法について検討を行う.研究にはウェスタンブロッティング法やリアルタイムPCR法に加え,siRNAを用いたRNA干渉法も導入する予定である.2)象牙質―歯髄複合体再生療法に適するスキャホールドの再検討:これまでに我々は,多く用いられているコラーゲンスポンジと比較して,ヒアルロン酸スポンジは抗炎症作用を発揮して,象牙質―歯髄複合体再生療法のスキャホールド用材料としてより適したものであることを報告している.しかしながら,その後にヒアルロン酸が神経線維の伸長に関しては抑制する方向へと作用する可能性が報告され,現在のところ本法における理想的なスキャホールド用材料となるのかは結論が得られていない.そのため我々は,骨補填材としても有用性が報告されている生体活性ガラスの,象牙質―歯髄複合体再生療法用スキャホールド材料としての可能性を探っていくこととした.はじめはin vitroにおいて,生体活性ガラスが歯髄細胞に及ぼす細胞増殖や分化誘導能について確認する.そして現在使用を検討しているFGF-2やBMP-2含浸ゼラチンハイドロゲル粒子との相互作用などについても詳細に検討する. 以上を達成したのち,実際に臨床条件下での処置を想定した動物実験を,過去にラットを用いて行ってきた実験方法に倣い遂行する予定である.
研究費は,リコンビナントタンパクと細胞培養関連の消耗品が中心となる.特にリコンビナントタンパクに関しては相当量使用する必要があるものの極めて高価であるため,消耗品費のうちかなりの支出を占めることとなる.さらに,RNA干渉実験及びリアルタイムPCR法,ウェスタンブロッティング法を行う上での各種研究様試薬も相当顎必要である.in vitro研究に引き続いてin vivo研究に移行する予定であるが,実験用動物及び飼育費も年度後半には必要とされる. 研究成果報告のために国際学会(1回)および国内学会(2回)での学会発表を予定している.また他の研究者との討論や意見交換のために他の研究機関訪問や上記以外の学会への参加を,さらに実験手技取得のため講習会の受講も予定している.そのため,これらにかかる費用として旅費や,その他の費用として学会参加費および講習料を計上している.さらに国内外専門誌への論文投稿のために外国語論文の校閲を謝金として,また論文投稿料をその他の費用として計上している.
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Int J Dent
doi:10.1155/2012/258469
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10.1016/j.joen.2011.03.037
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