断髄後の象牙質-歯髄複合体再生療法を確立することを目的として,本年度は前年度までに明らかにした知見をベースとして,さらなる研究を遂行した.研究内容は以下の通りである. 1)残存歯髄に影響の少ない断髄手技の検討:これまでに窩洞形成時の熱刺激や虚血による低栄養状態が引き起こす歯髄傷害について報告してきたが,さらに詳細な検討を行った.その結果,熱刺激や低栄養が個別に加わった時と比較し,両刺激が同時に加わった際には傷害が著しく増大すること,そして一過性である切削時の熱刺激と比較して一定時間持続する虚血による低栄養状態は,より深刻な影響を歯髄に与える可能性があることが示された.以上より,残存歯髄組織を利用して象牙質-歯髄複合体を再生するためには,血管収縮剤を含有しない局所麻酔薬を用いて断髄処置を行うことが重要であることが示唆された. 2)再生象牙質形成誘導法についての検討:これまでに報告しているFibroblast growth factor (FGF)-2含浸ゼラチンハイドロゲル粒子とヒアルロン酸スポンジを用いた象牙質-歯髄複合体再生法では,形成された硬組織は骨様象牙質であり,また形成量も不十分であった.そのためFGF-2に加えてBone morphogenetic protein (BMP)-2を用いることで,増殖した歯髄細胞を積極的に象牙芽細胞へと分化誘導する方法について検討を行い有用性を確認した.しかし複数の成長因子を階層的に断髄部へと埋入する手法は複雑であるため,他の象牙芽細胞分化誘導法について検討した.その結果,適切な熱刺激は細胞周期の停止と熱ショックタンパク質の細胞内蓄積により歯髄の耐性を向上させるだけではなく,後に細胞増殖の活性化と象牙芽細胞様細胞の分化誘導を促進することが確認された.このため,歯髄細胞増殖誘導後の適切な刺激による象牙質形成誘導法の可能性が示唆された.
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