研究目的であるインプラント周囲組織骨応力挙動の解明を目指して,本年度は被験者のCT データをもとに顎骨内の骨密度分布を忠実に再現した解析モデル(多値化モデル)を用いて解析を行い,二値化モデルによる解析結果と比較した.解析入力荷重として患者口腔内実測荷重を用いて動力学解析を行った.さらに,患者の顎骨内の骨密度分布を正確に反映した多値化モデルを用いて,インプラント埋入方向の変更による応力低減効果の検討を行った.インプラント治療において,力学的因子のコントロールはインプラントの長期経過と維持安定に大きな影響を与えるといわれている.しかしながら,これまでの研究では,海綿骨と皮質骨の二層構造に簡略化した解析モデル(二値化モデル)を用いて発生応力の評価を行っており,顎骨内における骨密度分布の非均質性 が考慮されていない.顎骨内の応力状態を有限要素解析により正確に評価するためには,個体差を忠実に反映した骨の材料物性を入力情報として用いるべきであり,本研究において多値化モデルにより既存の研究における問題点に対応したものである. 双方の有限要素モデルにおける解析結果を比較したところ,発生応力の評価結果は大きく異なることが確認された.これは,顎骨の材料定数を二値化して簡略化したことにより,大きな応力が皮質骨に集中して発生し,海綿骨では発生応力が非常に小いことが要因として考えられた.二値化モデルでは多値化モデルに対して平均応力が33%小さく,最大応力は40%大きかった.また,多値化モデルと比較して,二値化モデルでは局所的に大きな応力が発生する解析結果となる傾向があった.本研究結果から,生体内で発生するインプラント周囲組織骨応力挙度の評価を行うためには,患者の顎骨内骨密度分布を忠実に再現した多値化モデルを用いる必要があることが示唆された.
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