Shortened dental arch (SDA) Conceptは、一定の条件を満たしていれば臼歯部に欠損が生じても患者の総合的な口腔健康状態は大きく損なわれないという概念である。これまで、短縮歯列に対する補綴治療の必要性の検証は数多くされてきた。しかし、これらの研究は患者の主観的要素や咀嚼後の試料を測定したものが多く、咀嚼運動そのものに着目し、神経筋機構に関連する機能的要素を評価した報告は見あたらない。本研究は、SDAにより生じる咀嚼機能への影響を、神経筋機構的要素である運動の滑らかさにより定量化することを目的とした。 第1段階として、これまで開発された3軸加速度センサーを用いて咀嚼部位の違いが運動の滑らかさに与える影響を定量化すべく、下記の実験を行った。正常有歯顎者10名において、これまでに報告された実験方法に従って2色のガムを咀嚼してもらい、加速度センサーからJerk-costを算出して、下顎運動の滑らかさを求め、さらに、2色の混合割合を画像処理ソフトウエアから算出し、咀嚼効率を求めた。ここで、臼歯部から前歯部へと咀嚼部位を変更したときに、咀嚼効率は低下するが、運動の滑らかさには影響を与えないことを明らかにした。しかし、運動の滑らかさを時系列のグラフにしたときの臼歯部咀嚼群と前歯部咀嚼群における波形の形状の違いを考慮すると、運動の滑らかさについて有意差が認められなかった原因として、運動のvariabilityの大きさに依存した可能性も示唆された。咀嚼の相をさらに細かく分類して、各相における影響を定量化することが重要であると考えられた。
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