咀嚼運動の円滑な遂行には顎口腔系の感覚および運動能力が重要な役割を担っており、咀嚼すべき食塊の選別に必要な情報は咀嚼の円滑な進行に重要であることが明らかとなっている。また、光トポグラフィーを使用した研究から、ガム咀嚼時には視覚野の活動性が確認され、さらにガムの大きさ、ならびに硬さの増加に応じて有意に上昇することが明らかとなっている。咀嚼運動に影響を及ぼす食品の性状、サイズ等の形態認識時には視覚野の処理を受けることが予想される。 平成23年度は、光トポグラフィーを使用して、視覚を介さない口腔内及び手指による形状弁別時に、視覚野が存在する後頭皮質領域の脳血流量に影響を及ぼすかを明らかにすることとした。被験者は成人男性6名であり、視覚を介さない口腔および手指による形状弁別試験には、6種類(円・楕円・正方形・長方形・三角形・半円)の形態を使用した。口腔内および手指による形状弁別試験時の後頭皮質領域の脳血流量の変化をfNIRS計測装置により計測した。結果、口腔および手指による形状弁別時において、探索期によく対応した脳血流量の変化が認められ、後頭皮質領域の活動性が示された。また、試料を用いない模擬形状弁別時における脳血流量の発現は明らかに低下傾向を示した。 平成24年度は、前年度の結果を踏まえ、視覚を介さない口腔内及び手指による形状弁別時の後頭皮質領域の脳血流の変化の違いを検討し、口腔内と手指における脳機能局在の違いを明らかにすることとした。被験者は成人男性10名であり、試料および計測装置は前年度と同様の物を用いた。結果、口腔内での形状弁別時には、一次視覚野領域及び体性感覚連合野における脳血流量の増加がみられた。これに対し手指での形状弁別時には、体性感覚野連合野における脳血流量の増加がみられ、一次視覚野領域における脳血流量の変化は殆どみられなかった
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