機械的刺激が歯根膜組織の維持機構に大きく寄与していることは歯科臨床の場に於いて、過剰な咬合力は歯根膜腔の拡大に始まる歯周組織の崩壊を惹起するばかりでなく、咬合の負荷を喪失した歯根膜が廃用性萎縮を起こすことや、矯正力によって歯の移動が可能な事からも明らかである.本研究では歯根膜細胞におけるプライマリー・シリアのメカノ・レセプターとしての寄与を明らかにするため、歯根膜におけるプライマリー・シリアの発現および機械的刺激に対する応答を解析した.8週齢雄性ラットの上顎第一臼歯の咬合面に金属線を接着し、過剰咬合を付与した.過剰咬合付与3日後に屠殺し、歯周組織を含む上顎骨を摘出後、脱灰パラフィン包埋標本を作成し、免疫染色法によりプライマリー・シリアの検出をおこなった.歯根膜中には、anti-acetylated tubulin陽性のプライマリー・シリアを有する細胞が検出されたが、プライマリー・シリアの指向性、長さについては一定の傾向は認められなかった.コントロール群においてはanti-acetylated tubulinに陽性のプライマリー・シリアを有する細胞は歯頸部、分岐部、根尖部の順に高い出現率を示した.また、全ての部位において歯槽骨側と比較し、セメント質側に高い出現率が認められた.過剰咬合により歯頸部セメント質側における出現率は減少したものの、分岐部、根尖部の歯槽骨側においては著明な増加が認められた.また、コントロール群と同様、全ての部位において歯槽骨側と比較し、セメント質側に高い出現率が認められた.以上の結果よりプライマリー・シリアが歯根膜の中でもセメント質近傍に多く観察されること、またその出現率は部位によって異なることが明らかとなった.さらに過剰咬合に対する出現率の変化は部位特異的に認められたことから、機械的刺激に対する歯根膜の部位特異的な応答にプライマリー・シリアの出現が関与している可能性が示唆された.
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