研究課題
昨年度に行った過去20年間に当科で口腔インプラント治療を受けた現在年齢65歳以上の全高齢者の診療録調査にて抽出された,リコールできていない61名の高齢者の追跡調査を行った.このうち10名(平均年齢79.5歳,男性6名,女性4名)は体調不良を理由に来院していなかった.そして10名のうち3名は死亡していた. 生存していた7名のうち,アルツハイマー型認知症を有していた1名は,脳梗塞後に右側片麻痺および高次機能障害を生じ,セルフケアは困難となっていた.しかし,インプラント体は著名な骨吸収もなく機能していた.一方,残りの6名のうち悪性腫瘍の既往歴を有する1名(82歳,女性)はインプラント体が脱落し,欠損のままとなっていた.また,1名(82歳,男性)はインプラント体周囲の骨吸収が著しく,動揺は無いもののスレッドが大きく露出し,プラークが多量に付着し,炎症を起こしていた.さらに,2名(83歳,82歳,男性)はインプラント体に問題は無いものの,上部構造の前装部分は破折していた.これらの患者は全員がなんらかの専門的な口腔ケアを受けてはいたものの,プラークコントロールは悪く,Plaque control recordは平均72%であった.これらの結果および診査に携わった歯科医師からの意見を元に,口腔内診査用紙,インプラント体の評価シートおよびアンケートのブラッシュアップを行い,要介護高齢者を対象としたインプラント評価シートを完成させた.追跡調査によって,全身状態が悪化した高齢者にインプラント体の脱落,骨吸収や炎症,前装破折といった問題が起こり得ることが明らかとなった.今後は完成した評価シートを用いて,介護施設に協力を呼びかけ,さらに多くの高齢インプラント患者の予後調査を行う予定である.
2: おおむね順調に進展している
当科で口腔インプラント治療を受けた現在年齢65歳以上の全高齢患者の診療録調査によって,追跡不能患者の約2割が,何らかの全身状態の変化が原因で追跡できないということがわかった.今年度はこれらの高齢者の口腔内診査および全身状態の診査を行い,インプラント義歯に生じる問題点の詳細が明らかになった.申請時の予定では,平成24年度内に介護施設におけるサンプリングを開始する予定であったが,対象高齢者は転居や入院中,施設入所などの理由で調査開始までに時間を要する者が多かったため,今年度は実施できなかった.しかし,インプラント評価シートのブラッシュアップは終了しているうえ,協力いただける介護施設が決まっており,平成25年6月頃から介護施設でのサンプリングを実施する予定で,計画は概ね達成していると考える.
1.岡山県下の老人介護施設ならびに歯科診療所に研究参加の依頼平成24年度に追跡調査を行った当科の高齢患者のみでは,インプラント義歯を装着している要介護者の数は十分ではなかった.そこで,対象者数を増やして介護現場におけるインプラント義歯装着高齢者の実態を把握するため,岡山老人施設協会所属の介護施設および岡山県下の当科関連歯科診療所に対し,本研究への参加を依頼する.2.研究参加に同意していただいた要介護高齢者に対し,当科の口腔インプラント患者の追跡予後調査によってブラッシュアップされたインプラント評価シートを用いて臨床診査を行う.さらに,口腔衛生管理者へ介護負担度に関するアンケートを実施する.そして,インプラント義歯装着患者と可撤性床義歯装着患者ならびに義歯非装着患者の問題点を抽出し,比較する.さらに,これらの全高齢者を対象に,インプラント体の有無が臨床診査結果や口腔衛生管理者の負担度にどのような影響を与えるかを,多変量解析を用いて明らかにする.
平成25年度は,老人介護施設や高齢者の居宅を訪問する予定であるため,調査研究費(旅費)が必要となる.また,インプラント体を有する要介護高齢者のサンプリングが終了した後,口腔内診査,全身状態の調査に加えてPCR法を用いた細菌検査およびPg, Pi, Aa菌などに対する末梢血清抗体価の測定を行うため,試薬を購入する予定である.また,研究成果発表のため,学術大会参加および論文投稿を予定している.
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件)
Journal of Dental Education
巻: 76 ページ: 1580-1588