研究課題
現在の日本では他人からの他家移植は受け入れられにくく,免疫反応や感染等の危険性が少ない自己細胞のニーズが高まっている。しかし,間葉系幹細胞(MSC)の分化能は個人差が大きく,MSCを用いた骨再生治療の失敗の原因の1つに,細胞株によっては骨分化能を有さない,あるいは骨分化能が低いことが挙げられる。現在,各細胞株の骨分化能を判断するための幾つかの方法があるが,いずれも最終的な判断を下すには長期間の培養が必要である。また,MSCのソースとして研究が広く行われている腸骨は下顎骨とは発生学的に異なるため,歯槽骨の増生を目的とした際には顎骨骨髄由来MSCがより有用であると考えられる。そこで本研究は,採取した顎骨骨髄由来MSCの骨分化能の有無を早期に判断するマーカーの探索を目的として以下の実験を行った。(1): DNAアレイを用いて選定した12個の遺伝子を用いた。線維芽細胞を骨分化誘導し,選定遺伝子発現量の変化をリアルタイムPCRを用いて検討した。(2):(1)において発現量が変化しなかった選定遺伝子を用いて,腸骨骨髄由来MSCの骨分化誘導時の遺伝子発現量の変化を検討した。(3):(2)と同様の実験を顎骨骨髄由来MSCでも検討した。上記の実験から,線維芽細胞の骨分化誘導時には発現量があまり変化せず,腸骨骨髄由来MSCの骨分化誘導時には有意に発現量が上昇する遺伝子が存在することが示された。顎骨骨髄由来MSCにおいても腸骨骨髄由来MSCとの差は認められなかったが,線維芽細胞,腸骨骨髄由来MSCとは異なり顎骨骨髄由来MSCは購入することが出来ず患者の同意を得たうえで採取するため,サンプル数が少なく今後さらなる検討を行う必要がある。
3: やや遅れている
顎骨骨髄由来MSCは患者の同意を得て採取する必要があるため,サンプルの採取に制限があり実験の進行にやや遅れが生じていると考えられる。
顎骨骨髄由来MSCのサンプル数を増やしてリアルタイムPCRを行い,腸骨骨髄由来MSCとの差異が無いかを検討する。さらに骨分化マーカーとなりうる遺伝子に関してはsiRNAによる遺伝子発現抑制,および遺伝子導入による過剰発現を行い遺伝子の機能解析を行い,過剰発現させたMSCをSCIDマウスに移植して骨分化能を確認する。
細胞培養用の消耗品,遺伝子実験を行うための試薬,実験動物飼育費,研究成果発表のための旅費として用いる。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件)
The Journal of Materials Science: Materials in Medicine
巻: 22 ページ: 2765-2772
DOI:10.1007/s10856-011-4440-2
Stem Cells and Development
巻: 20 ページ: 1539 - 1547
10.1089/scd.2010.0279