近年、インプラント体の改良や骨補填材を含めた歯槽骨再生のための新規材料の開発、およびそれに伴う骨再生手法の開発によって、歯科領域における骨再生医療は目覚ましい発展を遂げているが、それでもなお骨再生に用いられる最も予知性の高い移植材は自家骨であるとされている。しかし、自家骨は採取時の負担の大きさや採取量に制限があり、知覚麻痺などの後遺症の可能性がある等の欠点があるため、より低侵襲で広範囲の骨欠損に対応できる新たな治療法の開発が望まれている。現在の日本では他人からの他家移植は受け入れられにくく、免疫反応や感染等の危険性が少ない自己細胞のニーズが高い。そのような状況の中で、比較的低侵襲で採取可能である間葉系幹細胞を用いた骨再生治療が歯科領域において臨床応用され始めており、その効果は大きな期待を集めている。また、間葉系幹細胞は様々な組織から分離可能であるが、由来によってその分化の程度は異なるとされている。そのため、神経堤由来である歯槽骨を再生するためには、発生を同じくする顎骨骨髄由来間葉系幹細胞が効果的であると予想される。ヒト顎骨骨髄由来間葉系幹細胞は骨分化能および脂肪分化能を示す一方で、軟骨分化能をほとんど示さなかった。以前の研究においてヒト腸骨骨髄由来間葉系幹細胞において骨分化マーカーとなる可能性が示されたZHX3は、ヒト顎骨骨髄由来間葉系幹細胞においては骨分化初期の発現レベルに変動が見られなかった。またヒト顎骨骨髄由来間葉系幹細胞のin vivoにおける異所性の骨形成能は、in vitroとは逆の結果を示した。本研究からin vivoとin vitroにおける骨分化能の結果は、必ずしも一致するとは限らない可能性が示された。
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