平成25年度は、前年度から行っていた実験データの解析を継続し、結果の発表を行った。まず、有歯顎者18名を対象に、補綴装置による口蓋の被覆が咀嚼嚥下機能に与える影響について、ビデオ内視鏡から得られた動画および静止画の分析を行った。口蓋被覆直後には咀嚼能率と食塊形成度は有意に低下し、口蓋被覆7日後には咀嚼能率は低下したままだが、食塊形成度は口蓋被覆前と同等のレベルまで回復していた。これらは、嚥下までの咀嚼回数の増加によって、食塊形成が代償された結果であることが明らかとなった。また、嚥下時舌圧には経時的変化は認められなかった。ビデオ造影検査を用いた咀嚼嚥下機能評価については、有歯顎者25名を対象に、咀嚼意識の強化が食塊搬送に与える影響について、動画および静止画の分析を行った。通常時と比較して咀嚼意識強化時には、第II期輸送によって咽頭に搬送される食塊を舌が前方の口腔に押し戻す運動が多く観察された。また、咀嚼意識強化時では、嚥下反射惹起が抑制され、嚥下反射前により多くの食塊を中咽頭に搬送されていた。その結果、咀嚼意識強化時には、良好に食塊形成された食塊を効率的に嚥下することができ、主観的評価による嚥下の容易さが有意に向上したと考えられた。 これらをふまえた上で、全部床義歯装着者15名を対象にビデオ造影検査を行い、義歯の装着が摂食時の食塊搬送に与える影響を検討した。その結果、義歯撤去時には、口唇・舌・下顎が代償性に運動することで、口腔から咽頭へと食塊搬送を行うが、食塊は早期に咽頭へ侵入し、食塊形成が良好に行われないことで嚥下反射惹起が遅延することが明らかとなった。以上より、高齢者における義歯の撤去は、加齢による予備力低下を増悪すると考えられ、義歯の装着は口腔と咽頭の構造を保ち、摂食嚥下に肯定的に働くことが示唆された。
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