研究概要 |
本研究は,歯の欠損による口腔機能障害が咀嚼を行う際のヒト脳機能活動にどのような影響を及ぼしているのか明らかにすること,また,その障害に対して歯科治療を行うことでの機能回復が脳機能活動にどのような影響を及ぼすのか明らかとすることを目的として行った. 研究は,80歳以上で20本以上の歯が残っている高齢有歯顎者と80歳以上で歯が無い高齢無歯顎者を対象として,咀嚼時の脳機能活動の違いを観察した.また,高齢無歯顎者は,義歯を装着し口腔機能を回復した状態での脳活動についても比較検討を行った.脳機能活動の観察には,fMRIで撮像し機能脳画像マッピング法を用いて検討を行った. その結果,有歯顎者と無歯顎者での脳活動で,感覚野での賦活の違いを認めた.無歯顎者で歯が喪失したことでの感覚情報入力の減少が反映し脳賦活が低下したものと思われる.また,随意運動をコントロールする大脳基底核-皮質ループでは,有歯顎者では大脳基底核,視床と賦活を認めるのに対し,無歯顎者においては賦活を認めなかった.加えて,前頭前野は,目的とする行動を遂行するためのプログラミング,適切な行動の選択に関わっている部位,扁桃体は視床などからの情報入力を受け認知に関わるとされる部位であるが,この脳部位においても無歯顎者では賦活が消失した.しかし,無歯顎者に対して義歯装着すると,感覚野での賦活が戻り,運動野においても賦活部位の広がりをみせた.大脳基底核-皮質ループでは,無歯顎者で大脳基底核,視床賦活を認めないのに対し,義歯装着により賦活を認め,前頭前野,扁桃体においても再び賦活を認めた. この結果は,歯の喪失により咀嚼に関与する脳部位の活動低下させることを明らかとした.一方で,適切な歯科治療により口腔機能の回復を行うことで,失われた機能を取り戻し運動,感覚処理をする脳部位の賦活を甦らせることが可能であることを裏付ける結果となった.
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