放射線照射による歯科用高分子材料(義歯床用レジンおよびコンポジットレジン)への影響に関する検討は、放射線治療による歯科用高分子材料の挙動のみならず、2年前の大震災による原子力発電所のメルトスルーによる影響、さらには将来の宇宙空間での歯科治療時の宇宙放射線などの曝露環境下においての影響など、多岐に渡る放射線による歯科用高分子材料の物性に与える影響を検討することができ、かつ、放射線耐性の歯科用高分子材料開発の基礎的なデータの採取を目的としている。特に、メルトスルーによる放射線被爆や、宇宙空間での地上以上に放射線を被曝する状態では、モノマーに対する影響が懸念されており、歯科用高分子材料が十分に機能しなくなることが想定され、このことによる歯科医療の提供の困難性が考慮される。 従って本研究に関し、市販されている未開封の歯科用高分子材料に対し放射線を照射することにより、どの被曝量まで通常時と変わらず使用できるかの検討を行った。この研究の意義は、特に大震災により原子力発電所で生じたメルトスルーによる歯科用高分子材料への放射線被曝に関し、どの程度の被曝量まで市販の歯科用高分子材料が歯科治療に供する事が出来るかという一定の基準を示す事が出来たこと、また、医療従事者に対し学会発表を通し情報提供および啓蒙活動を行えた事、さらに、その結果を震災地である福島県郡山市で発表を行えたことである。このことにより、学術的な裏付けのある歯科用高分子材料を用いた歯科治療を国民に安心して提供できる指針を国内外に示した事は非常に重要な事であると思われる。また、本研究において光増感剤であるカンファーキノンがある一定量のX線照射により機能しなくなることによる歯科用コンポジットレジンの劣化を指摘できた事は非常に大きな成果である。
|