研究課題
下顎顎義歯装着患者を対象として,咀嚼能力に関与する因子を明確にすることで,補綴治療の指標および,術後の機能回復の目安を得ることを目的とし,関連諸条件を明確にすることを目的に研究を遂行した. 被験者は,愛知学院大学歯学部附属病院顎顔面補綴科診療部で補綴治療を行い,研究の主旨に同意が得られた下顎顎義歯装着患者25名である.客観的咀嚼能力評価として2種類の試験食材を用い,検査用グミゼリーによる咬断能力および,ワックスキューブによる混合能力を測定した.さらに,摂食可能食品アンケートによる咀嚼スコア,デンタルプレスケールによる咬合接触点数を測定し,性別,年齢,咬合支持域数,下顎の欠損形態,対向関係,舌欠損および再建状況,顎偏位の有無を評価項目に加え,咬断能力を目的変数として統計解析を行った.統計解析は,PASW Statistics 18.0 を用いPearson の相関係数,Spearman の順位相関係数を算出し,強制投入法による重回帰分析を行った. その結果,1.Pearson の相関関係,Spearman の順位相関において,咬合接触点数,咬合支持域数,年齢,性別,欠損形態,対向関係は,咬断片表面積増加量に対して高い相関関係が認められたことから,これらが咀嚼能力に影響を及ぼしていると考えられた.2.重回帰分析の結果から,咬合接触点数および咬合支持域数が咀嚼能力に強く影響を与え,それらが増加することで咀嚼能力が向上し,下顎顎義歯装着患者の客観的咀嚼能力の評価に有用であることが示唆された.今後は,被験者数を増やすともに,欠損形態等をさらに細かく分類して検討する必要があるものと判断された.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,患者個々に特有の下顎運動を反映した咬合の構築法を確立する事,およびどのような咬合因子が咀嚼機能にとって最も重要であるのかを明確にすること,また,上顎骨欠損において関節窩が欠損している場合も相対する下顎頭の運動は特有な様相を呈するものと考えているので,それらについても詳細を明らかにすることを目的としている. そこで,平成23年度の研究計画として,現状の顎義歯装着者の咀嚼機能に関する因子を抽出をすることを研究目標として掲げているが,研究実績の概要にも示した通り,下顎顎義歯装着者の咀嚼能力評価として,各種主観的評価および客観的評価を実施した,その評価結果および統計学的手法を用いた解析結果から,下顎顎義歯装着者においては,咬合接触点数,咬合支持域数,年齢,性別,欠損形態,対向関係が咀嚼能力に関する因子として抽出された.このことから,これらの因子が,この種の症例における咀嚼能力に関する指標のパラメータとして活用されることが示唆された.中でも咬合接触点数,咬合支持域数および対向関係は,補綴治療において変化させることが可能であることから,咀嚼能力を向上 させる因子として期待できる. 以上より,現時点での研究の進展と,研究目的を遂行するために,当初掲げた研究実施計画とを比較しても,本研究はおおむね順調に進展しているものと,自己評価している.
現在までに,下顎顎義歯装着者における咀嚼能力に関する因子の抽出に一定の成果が得られたと考えられるが,出来れば,被験者数を可及的に増加することから,より大きな集団から,咀嚼能力に関する因子の検討が必要と考えている.また,研究目的に示したように,下顎骨欠損のみならず上顎骨欠損症例に関しても同様に,咀嚼能力に関する因子の抽出を遂行したいと考えている.それらの結果から,この種の症例に関する顎補綴治療における指標を構築することを予定している. また,本学術研究助成基金助成金で購入したアルクスディグマIIを用いて,下顎顎義歯装着者の下顎運動および咬筋・側頭筋の筋電図測定を実施するが,健常者の下顎運動も併せて測定し,検査項目におけるパラメータを確立することから,この種の症例に特徴的な運動様相を明確にする.さらに,特に試験食材の咀嚼時における運動様相解析を実施する予定であるが,このことからより統合的な咀嚼能力に関する分析が可能であるものと期待している.
次年度の研究費の使用計画としては,そのほとんどが,研究遂行に必要な,特に下顎運動や咬合力測定に関する消耗品として考えている. また,現在までの成果発表として,10th Biennial Meeting of the International Society for Maxillofacial Rehabilitation(October 27-30,2012, Baltimore, USA) にて発表予定であり,研究費の一部を外国旅費として使用予定である.
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顎顔面補綴
巻: 34( 1 ) ページ: 8-13
ISSN:03894045
巻: 34( 1 ) ページ: 14-19
巻: 34( 2 ) ページ: 21-27
老年歯科医学
巻: 26( 3 ) ページ: 354-361
ISSN:09143866