研究課題/領域番号 |
23792290
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 かおり 岩手医科大学, 医療工学講座, 助教 (00364373)
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キーワード | 生体材料 / アルギン酸ナトリウム / 架橋反応 / 物性試験 |
研究概要 |
再生医療で使用される膜材料には,生体適合性に優れる性質のほかに,それ自体が細胞接着を促進させるような生理活性機能と,薬物を徐放する機能の双方が求められる.本研究では,アルギン酸が多価金属イオンにより架橋してゲル化する性質に着目し,架橋したアルギン酸ゲル薄膜にヒト歯根膜線維芽細胞を播種して細胞の接着,伸展を検討し,細胞培養基質に資するか評価した.多価金属イオンには2価金属塩にCaCl2,3価金属塩にFeCl3を用いた.また,この材料に成長因子を徐放する機能を付与することを目指し,その予備的な実験として色素系のモデルドラッグ(アクリフラビンおよびメチレンブルー)を含有させ,その放出挙動を分光法で評価した. その結果, 1.Ca架橋により作製されたアルギン酸ゲル薄膜上で,ヒト歯根膜線維芽細胞の増殖が認められ,細胞培養基質として資することが確認された. 2.Ca架橋,Fe架橋により作製されたアルギン酸ゲル薄膜を培養液に3日間浸漬し,クエン酸ナトリウムにて溶解して銀染色を施すと,どちらの試料からも培地に含有される血清タンパク質が検出された.従ってアルギン酸ゲル薄膜にタンパク質が浸潤していることが確認された. 3.低,中,高分子量のアルギン酸ナトリウムを用いてアルギン酸ゲル薄膜を作製し,モデルドラッグによる放出挙動を比較をしたところ,低分量のアルギン酸ナトリウムにて作製したゲル薄膜は色素の放出能が高いという結果が得られたことから,適切な分子量の架橋性高分子を選択することにより,膜材料として適切な徐放スピードのコントロールが可能になる技術に応用できると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の今年度の目的は,作製した生体材料(アルギン酸ゲル薄膜)に対する細胞の接着,伸展,増殖の傾向を観察することであるため,Ca架橋したアルギン酸ゲルにヒト歯根膜細胞を播種して観察し,その増殖傾向を確認できたことは研究がおおむね順調に進展していると考えられる.また,培養液に浸漬した薄膜を溶解することにより,銀染色にて血清タンパク質の検出を確認することもできた.予備実験ではあるが,DDSの検討としてモデルドラッグに色素を用い,アルギン酸ゲル薄膜からの放出挙動を計測し,その傾向を確認することができた.
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今後の研究の推進方策 |
アルギン酸ゲル薄膜が足場材料として機能するためには,生体内で細胞成長因子を徐放し,細胞の増殖・分化を促進できなければならない.塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)や血管内皮増殖因子(VEGF)は,未分化間葉系細胞の増殖能を高めて血管や骨の新生を促進し,歯周組織の再生を誘導することが報告されていることから,今後の計画としては細胞成長因子を作製したアルギン酸ゲル薄膜に担持させ,DDSとしての機能性を持たせる実験を進めていく予定である.昨年度予備実験として行ったモデルドラッグ(色素)の放出挙動では,低分子量のアルギン酸ナトリウムにより作製されたアルギン酸ゲル薄膜が徐放能が高いという結果を得ていることから,同様に細胞成長因子の徐放による放出挙動を計測する予定である.また,Fe架橋により作製されたアルギン酸ゲル薄膜上でのヒト歯根膜線維芽細胞の接着,進展,増殖の観察を行い,Ca架橋との比較検討を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
アルギン酸ゲル薄膜のDDSとしての機能を確認するため,細胞成長因子を購入する必要がある.現在検討しているものとして,塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)や血管内皮増殖因子(VEGF)などが挙げられるが,その他必要に応じて細胞成長因子を購入する予定である.
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