歯髄には、骨髄と同様に骨・軟骨・脂肪等への多分化能を有する幹細胞の存在が知られている。これらの歯髄幹細胞(以下DPSC)は、増殖能が高く、比較的採取しやすいため、組織再生のための細胞ソースとして盛んに研究が行われている。しかしながら、それらのほとんどが歯髄を培養皿上で培養後、付着増殖した細胞をDPSC とみなす接着培養法により細胞が分離されている。そのため、前駆細胞の混入や培養による性質変化の可能性が否定できず、実験の再現性に欠けるなど、DPSC の本質を明らかにするには不十分な細胞集団であると考えられる。また、臨床応用を考えた場合にも、雑多な細胞集団を移植した場合には、細胞の分化、増殖能が一定でなく組織再生能力が不安定であることが予想される。 そこで、歯髄から培養を経ることなく直接的に幹細胞を分離する方法(予期的分離法)を確立するためにDPSC に特異的な細胞表面マーカーを同定する研究を行った。その結果、CD271low+CD90high+の細胞集団より分離した細胞は高いコロニー形成能を示した。この細胞集団は、骨髄細胞にはみられない細胞集団であり、骨髄間葉系幹細胞とは異なる細胞集団であると考えられた。また、予期的に分離したhDPSCは間葉系細胞への高い分化能を示し、細胞表面抗原解析では幹細胞マーカーの発現を認めた。さらに、免疫不全マウスの頭蓋骨欠損モデルを作製し、予期的に分離したhDPSCの移植を行った。マイクロCTおよび免疫染色による評価を行い、CD271low+CD90high+ hDPSCはin vivoでも高い増殖能および骨形成能を示した。
|