研究課題
がんにおいて血管はがん細胞に栄養や酸素を供給することで,その進展や転移にも深く関与している。近年認可されたベバシズマブをはじめとする血管新生阻害療法は,腫瘍血管の新生を制御し,腫瘍を兵糧攻めにする新たながんの治療法として注目を集めている。その一方で,喀血などの副作用やこれらの薬剤が奏功しづらいがんの報告がみられてきている。 われわれはこれまで腫瘍血管内皮細胞(Tumor Endothelial Cells: TEC)が,正常血管内皮細胞(Normal Endothelial Cells: NEC)と比較して,(1)増殖能、運動能などの生物学的活性が高い(2)薬剤抵抗性を有する(3)特異的な遺伝子の発現するなどさまざまな点で異なることを報告してきた。 しかし,悪性度の異なるがんにおけるTECの性質の違いについては,今まで明らかではなかった。一方,TECは,転移するがん細胞にとっては重要な関門のひとつであることから, TECががんの転移と関連し, 腫瘍の間質を構成するTECの性質には差があるのではないかと考えた。 そこで,転移能の異なる腫瘍からTECを分離・培養し,それらの生物学的性質を比較・検討した。実験では、低転移性ヒト腫瘍細胞と高転移性ヒト腫瘍細胞をヌードマウスに皮下移植し,それぞれの腫瘍塊から,高転移性腫瘍由来血管内皮と低転移性腫瘍由来血管内皮を分離・培養し、それぞれの腫瘍血管内皮の性質を検討した。
2: おおむね順調に進展している
H23年度は、ヒト高転移性腫瘍細胞とヒト低転移性腫瘍細胞をヌードマウスに皮下移植し、腫瘍塊からの高転移性腫瘍由来血管皮細胞と低転移性腫瘍由来血管内皮細胞の磁気ビーズとフローサイトメトリーを用いて分離・培養を行った。一回の採取で腫瘍組織中に血管内皮細胞の2~5%しかおらず、大変希少であった。PCR法とフローサイトメーター解析、管腔形成アッセイで、分離した血管内皮の特性解析を行う。培養血管内皮細胞が、血管内皮マーカーを発現し、線維芽細胞や癌細胞などの他細胞の混入がなく、純度の高い血管内皮であることが確認できた。
H24年度高転移性腫瘍由来血管内皮細胞と低転移性腫瘍由来血管内皮細胞の性質をより詳細に解析する予定である。腫瘍組織は低酸素環境にさらされている。そこで低栄養下(0%~2%血清)と低酸素下(1%O2~5%O2)での増殖能、初期アポトーシス細胞数の割合を比較・解析する。 フローサイトメーターを用いて、低栄養下での高転移性腫瘍血管内皮および低転移性腫瘍血管内皮における、死細胞(PI(+)細胞)、初期アポトーシス細胞(PI(-) annexin V(アネキシン)(+))の割合を比較・解析する。また腫瘍細胞の高転移性腫瘍由来血管内皮細胞と低転移性腫瘍由来血管内皮細胞の培養上清に対しての走化遊走能を遊走アッセイで、各細胞に対する接着能の違いを接着アッセイを用いて解析する。
H23年度は、ヌードマウス皮下移植塊からの血管内皮の分離・培養に効率よく成功し、当初購入を予定していたマウスの一部分を購入する必要がなくなったため、未使用額が発生した。H24年度は、腫瘍から分離した血管内皮の特性を解析するための初代培養を継続に行うには、高価な培地を必要とし、培養用試薬の項目も必要である。フローサイトメーターの管理・測定において、精度管理ビーズやフロー液、蛍光付き抗体などの高価な試薬が必要である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Am J Pathol
巻: 180(3) ページ: 1294-1307
10.1016/j.ajpath.2011.11.029
http://www.den.hokudai.ac.jp/vascular-biology/