研究課題/領域番号 |
23792306
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大賀 則孝 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 特任助教 (40548202)
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キーワード | 腫瘍血管新生 / 転移 / 腫瘍血管内皮細胞 |
研究概要 |
がんにおいて血管はがん細胞に栄養や酸素を供給することで,その進展や転移にも深く関与している。現在、臨床で用いられている血管新生阻害療法は,腫瘍血管の新生を制御し,腫瘍を兵糧攻めにする新たながんの治療法として注目を集めている。その一方で,喀血などの副作用やこれらの薬剤が奏功しづらいがんの報告がみられてきている。われわれはこれまで腫瘍血管内皮細胞(Tumor Endothelial Cells: TEC)が,正常血管内皮細胞(Normal Endothelial Cells: NEC)と比較して,①増殖能、運動能などの生物学的活性が高い②薬剤抵抗性を有する③特異的な遺伝子の発現するなどさまざまな点で異なることを報告してきた。 しかし,悪性度の異なるがんにおけるTECの性質の違いについては,今まで明らかではなかった。一方,TECは,転移するがん細胞にとっては重要な関門のひとつであることから, TECががんの転移と関連し, 腫瘍の間質を構成するTECの性質には差があるのではないかと考えた。 そこで,転移能の異なる腫瘍からTECを分離・培養し,それらの生物学的性質を比較・検討した。実験では、低転移性ヒト腫瘍細胞と高転移性ヒト腫瘍細胞をヌードマウスに皮下移植し,それぞれの腫瘍塊から,高転移性腫瘍由来血管内皮と低転移性腫瘍由来血管内皮を分離・培養し、それぞれの腫瘍血管内皮の性質を検討した。H23年度は、これらの腫瘍塊からの腫瘍血管内皮細胞の磁気ビーズとフローサイトメトリーを用いて分離・培養を行った。H24年度はこれらの生物学的な性質について解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度は、前年度に分離したヒト高転移性腫瘍細胞とヒト低転移性腫瘍細胞の生物学的性質を解析した。 まず、血管内皮細胞としての特性を有しているかを確認した。分離・培養した血管内皮細胞がCD31、34、105、144などの汎血管内皮細胞マーカーが発現しており、線維芽細胞や癌細胞などの他細胞の混入がないことが確認できた。 低転移性腫瘍由来血管内皮に比べ,高転移性腫瘍由来血管内皮は増殖能及び遊走能が高く,血管新生関連遺伝子であるVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor: 血管内皮増殖因子),VEGFR-1,2(Vascular Endothelial Growth Factor receptor-1,2),Hypoxia indicible factor-1α(HIF-1α)などの遺伝子発現が高いことがわかりました。さらに,高転移性腫瘍由来血管内皮は幹細胞マーカー,Stem cell antigen-1(Sca-1),CD90の遺伝子発現が亢進しており,さらに骨への分化や3次元培養におけるスフェロイド形成といった幹細胞性を有していることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は、高転移性腫瘍由来血管内皮細胞と低転移性腫瘍由来血管内皮細胞の性質の違いに、どのような影響因子のが関与しているかについて検討する予定である。 我々はそれぞれの腫瘍における①低酸素環境や②腫瘍細胞からの液性因子などがこれらの違いに関与しているのではないかと考えている。そこで、低酸素環境のイメージングのためにin vivoでの高転移性腫瘍と低転移性腫瘍の低酸素環境の違いをpimonidazoleを用いた免疫染色を用いて解析したい。またin vitroで腫瘍細胞からのどのような液性因子がこれらの性質の違いに関与しているかについて検討したい。具体的にはタンパク検出用アレイやVEGF、EGF、FGFなどの種々のgrowth factorのELISAを用いて解析を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は、ヌードマウス皮下移植塊からの血管内皮細胞の分離・培養が効率よく成功したため、マウスの一部分を購入する必要なくなった。また、腫瘍血管内皮細胞の骨分化アッセイ、スフェロイドアッセイのためのキットを数種類購入して、予備実験後、本実験予定であった。実際、最初に購入したキットで実験が効率よく進み、追加でキットを購入する必要がなかったため未使用額が発生した。 腫瘍から分離した血管内皮細胞の性質を解析するための初代培養を継続に行うには、高価な培地を必要とする。 H25年度はさらにフローサイトメーターの管理・測定において、精度管理ビーズやフロー液、蛍光付き抗体などの高価な試薬が必要である。また低酸素状態のイメージングのための抗体やpimonidazoleなど高価な試薬が必要である。未使用額は、上記の試薬等の購入に用いたいと考えている。 また、高転移性腫瘍由来血管内皮細胞と低転移性腫瘍由来血管内皮細胞の培養上清のgrowth factor濃度測定のためにのいくつかのELISAプレートの購入を行いたいと考えている。
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