細胞表面の糖鎖は、特定のタンパク質や脂質、または別の糖鎖と結合して細胞接着や情報伝達など生体内で重要な機能を担っている。糖鎖の質的、量的な異常は、悪性腫瘍などの病気の発症や病態の変化の原因となる。 本研究では、アスパラギン結合型糖鎖にβ1-6結合の分岐鎖を合成する酵素であるGnT-V(N-アセチルグルコサミン転移酵素V)が、口腔がんにおいてどのような働きをしているかを検索し、その発現と分子イメージングであるPETデータとの関連性について検討を行った。 北海道大学歯科診療センターを受診した口腔扁平上皮がん対象症例の約65%にGnT-Vタンパク発現を認めた。さらに組織検体を用いてGnT-V mRNAの発現を調べたところ、正常組織と同様に前癌病変ではほとんど発現していないのに対し、扁平上皮がんでは有意に発現亢進を認めた。また、術前のFDG-PETおよびhypoxia imagingであるFMISO-PETにおけるSUV値と、GnT-VやHIF-1αの発現との関連性について免疫組織学的に検討した。その結果、FDG-PETのSUV値が高い症例ではFMISO-PETのSUV値も高値を示し、これらの症例ではGnT-VおよびHIF-1αの発現も高い傾向を示すことが明らかとなった。 さらに、ヒト口腔がん細胞であるSAS細胞を用いてGnT-Vの機能をswainsonine処理によって阻害したところ、細胞運動能が低下した。これらのことから口腔がんにおいてGnT-Vによる糖鎖の修飾は細胞運動能の亢進に関与している可能性が示唆され、これが細胞活性や細胞内の低酸素状態となんらかの関連性があることが明らかとなった。
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