目的は転写因子であるHOX familyとその関連遺伝子が口腔癌に及ぼす影響を明らかにすることである。まずマイクロアレイ、パスウェイ解析により口腔癌でのHOX family発現と関連遺伝子のネットワークを明らかにした。次に口腔癌で高発現している正常口腔扁平上皮由来初代培養細胞株と口腔癌細胞株10種類を用い、HOX familyおよび関連遺伝子の発現状態をRT-PCR法で評価した。HOXA1、HOXB7、HOXC9、HOXD11、HOXA10で高発現が確認され、パスウェイ解析によってHOX familyと関連があると考えられたDkk1、Wnt7A、GRB2、MEK1、Bcl-2の各遺伝子についても同様に有意な発現亢進を認めた。 臨床検体30例におけるHOXA1、HOXA10、Dkk1、Wnt7A、GRB2、MEK1、Bcl-2のmRNA発現状態をRT-PCRで確認し、各々約8割の症例で発現上昇が確認された。さらにWestern blotting、免疫組織学的染色においてタンパク質の高発現が認められた。 次に、機能解析のため、siRNAを用いて口腔癌細胞株 (HSC-3、Sa3) のHOXA1をサイレンシングし、細胞増殖能試験、浸潤能試験、創傷治癒試験を行った。細胞増殖能試験において、正常口腔扁平上皮と比べ有意な細胞増殖の抑制が認められ、免疫組織学的染色で得られたIHCスコアからタンパク発現と臨床指標との相関を検討したところ、サイレンシングの結果を裏付けるように、primary tumor sizeにおいて口腔癌組織と正常組織間で有意差が認められた。しかしながらHOXA1のサイレンシングとDkk1、Wnt7A、GRB2、MEK1、Bcl-2各遺伝子の相関は明らかではなかった。HOX遺伝子群には口腔癌で高発現を示す遺伝子が存在し、特に腫瘍増殖に深く関わっている可能性が示唆された。
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