我々は、これまで若年者のヒト智歯から歯髄細胞(Dental Pulp Cell : DPC)を樹立し、DPCが高い増殖・分化能(ステムネス性:幹細胞性)を有し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)へ高率に誘導できることを明らかにした。また、高齢者のDPCは、若年者に比べてはるかに樹立効率が低くステムネス性の維持も困難であったが、低酸素下での培養によりこれらの問題を解決するに至っている。しかし、高齢者から得られたDPCのiPS細胞への誘導効率は極めて低く、再生医療に応用するためには、今後、原因の解明と改善が必要な状況となっている。本研究では、若年者のヒト線維芽細胞からiPS細胞への誘導に特定期間の低酸素培養が有効であったとの報告に注目し、高齢者から得られたDPCで、どの程度の効果が得られるのかを検証するとと伴に iPS細胞化に最適な誘導条件について検討を行い、誘導効率の向上を目指した。 全研究期間を通じて、我々はDPCからiPS細胞への誘導効率を上昇させる酸素培養条件を検討し、従来よりも約4~7倍のコロニー数を得られる条件を見出した。これは、若年者だけではなく、高齢者にも同様の効果をもたらした。この条件によって得られたiPS細胞は、免疫染色、realtime PCR法、テラトーマ形成、EB形成を行い、従来のiPS細胞と同等の未分化性、多分化能をもつことがわかった。このメカニズムとして上皮系マーカーであるE-cadherinが関与していた。さらに今年度では、若年者と高齢者のDPCを遺伝子解析し、DPCの未分化性に関与すると思われる遺伝子を見出すに至った。 これらの結果は高齢者のような少ない細胞数からの樹立に有意義であると考えられる。また、既発表の論文とは異なる条件であるため、低酸素研究に新たな提言を与えられる可能性がある。
|