研究課題
顎変形症の殆どは、出生後成長に伴い顎変形を来すもので、以前より環境要因とともに遺伝要因が強く関わることが示唆されてきたが、その分子的基盤は全く明らかでなかった。本研究は、我々が出生後成長とともに上顎劣成長をきたすことを見出したId2遺伝子欠損マウスを用いて、顎変形症の病態を明らかにするとともに発症の分子メカニズム解析し、その遺伝要因の一端を示すことにある。 研究成果としては、μ-CTによるId-2遺伝子欠損マウスの上顎骨の形態計測、Id-2遺伝子欠損マウスの軟骨形成部(頭蓋底における軟骨結合、鼻中隔軟骨)の組織学的解析、Id2の軟骨組織での発現解析、軟骨形成部(脳頭蓋底軟骨結合部、鼻中隔軟骨)の細胞動態、分化能の解析を行い、Id2遺伝子欠損マウスと野生型マウスの違いを明らかにし、成長期に上顎劣成長に至る発生機序を明らかにした。 この研究の重要性は、これまで全く病態が明らかでなかった顎変形症の遺伝要因を、上顎劣成長のモデルマウスを用いて世界で初めて解析し、病態の遺伝要因として、Id2遺伝子が軟骨分化形成の制御に関係することを明らかにし、Id2遺伝子と顎変形症との関わりを明らかにすることによって、顎変形症患者のヒトId2遺伝子を用いた遺伝子診断への展望が開け、顎変形症の発症前診断へとつながることである。顎変形症の分子メカニズムの一端を明らかにし、顎変形症の発症前診断の基準にその遺伝子多型を役立てることができれば、従来の治療計画を根本から変革することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
今年度施行予定であった1、μ-CTによるId-2遺伝子欠損マウスの上顎骨の形態計測2、Id2の軟骨組織での発現3、Id-2遺伝子欠損マウスの軟骨形成部(脳頭蓋底軟骨結合部、鼻中隔軟骨)の組織学的解析、細胞動態、分化能の解析は計画通り結果がでており、さらに脳頭蓋軟骨結合部、鼻中隔軟骨の器官培養、BMP等の添加実験施行に至ったため。
脳頭蓋軟骨結合部、鼻中隔軟骨の器官培養、micromass culture等のin vitro実験系を用いてId2の機能に関わる他の転写因子やId2の上流のシグナル伝達系であるBMP signalingや下流の位置するSTAT signaling等を解析しId2が成長期の軟骨においてどういった生理学的な役割を果たしているかを分子レベルで明らかにする。また、Id2の遺伝子発現に密接に関わるとされている、BMPおよびFGF、その他RAを用いて器官培養への添加実験を行い、Id2遺伝子欠損マウスと野生型との差を組織学的に解析する。さらに、リン酸化Smad抗体およびリン酸化Stat抗体を用いた免疫組織学的解析やWestern blotting等の手法を用い脳頭蓋底および鼻中隔軟骨部位でのさらなるId2をとりまく分子メカニズムの解析をおこない、上顎劣成長を引き起こすメカニズムの解析をおこなう。
今年度使用予定金額より低予算にて解析が可能であったため、次年度の脳頭蓋軟骨結合部・鼻中隔軟骨の器官培養、micromass culture等のin vitro実験系に、より多くの予算が必要であると考えられたため、次年度使用額を用いる予定である。
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Bone
巻: 50 ページ: 69~78
10.1016/j.bone.2011.09.049