味覚と嗅覚情報は、食の嗜好性を形成する上で重要な役割を果たしていると考えられている。初年度には、味覚や嗅覚情報の遮断が糖動態や甘味嗜好性へ与える影響を検討した。野生型・嗅覚遮断ラットともに経管投与条件下では、血糖曲線は緩やかに上昇し、最大値は低下した。嗅覚遮断によって糖負荷後の最大血糖値は有意に低下した。嗅覚遮断ラットでは、全溶液摂取量及び全溶液摂取量中の糖液摂取量の比率は減少した。味覚及び嗅覚情報の遮断が、糖液摂取後の血中糖動態・甘味嗜好性を変化させることが明らかとなり、経口摂取に伴う味覚・嗅覚情報が血中糖動態に重要な役割を果たすことが示唆された。次年度には3週齢雄性ICRマウスに約2か月間亜鉛欠乏食を摂取させ味覚障害モデルマウスを作成し、甘味嗜好性へ及ぼす影響について検討を行った。亜鉛欠乏マウスの体重あたりの水分摂取量(24時間)および5 mMサッカリン溶液摂取量は、コントロール群と比較し、有意に増加した。亜鉛欠乏食から普通飼料へ変更し、7週間後に再度、甘味嗜好性の評価を行うと、サッカリン摂取量は飼料変更前と比較して減少することが明らかとなった。今後は他の様々な匂い刺激を用いて、同様に甘味嗜好性や血中糖動態への影響を検討していく。最終的には、ヒトを対象として口腔内の味覚情報や嗅覚情報が糖動態に与える影響について動物実験結果をもとに検証した上で、味覚や嗅覚情報を様々に条件付けすることで,経管栄養を要する患者においてより効率的な栄養吸収と食の満足感が得られる方策を考案していく予定である。
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