研究課題/領域番号 |
23792340
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
明石 昌也 神戸大学, 医学部附属病院, 医員 (40597168)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / リンパ管 / 細胞間接着 / 内皮細胞 |
研究概要 |
口腔癌の所属リンパ節転移は患者の予後に関わる最重要因子である。近年悪性腫瘍がリンパ管新生能を有し、その結果癌のリンパ節転移を促進しているとの報告がマウスなどを用いた実験により証明されて来た。しかし、悪性腫瘍による新生血管が正常血管とはその強度や走行の直線性など幾つかの点で大きく異なる性質を有しているのが判明しているのに比べ、癌新生リンパ管と正常リンパ管の相違性についてはいまだ完全に理解されていない。本研究の最終目的は、癌新生リンパ管の特質性に関する研究を行い、口腔癌のリンパ節転移のメカニズムを解明することにある。その方法としては、研究者がこれまで従事してきた血管内皮細胞の細胞間接着を検討する方法を用いた。細胞間接着複合体は主にtight junction(以下TJ)とadherens junction(以下AJ)から構成されている。血管内皮細胞においては、AJ構成分子であるVE-cadherinやTJ構成因子であるclaudinに関する過去の報告は多くあるが、リンパ管内皮細胞においてはAJ、TJ構成因子に関する詳細な評価はいまだ充分であるとは言えない。よって、当該年度はまず正常リンパ管細胞におけるAJ、TJ構成因子の発現を検討した。研究者が平成23年度に論文に報告した血管内皮細胞における新規細胞間接着関連分子(Akashi, M. et al. Biochem Biophys Res Commun 413: 224-9, 2011)のリンパ管内皮細胞での発現に関する検討も行った。更に今後、癌新生血管と正常血管で比較が行われているように、細胞間透過性の評価をリンパ管内皮細胞においても行う予定にしており、その準備実験として正常リンパ管内皮細胞においてTER(細胞層の経内皮電気抵抗値)を測定した。また、当該年度に予定していた手術検体を用いた免疫染色を、準備実験として行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は癌新生リンパ管の特質性に関する理解を深め、口腔癌のリンパ節転移のメカニズムを解明することを最終目的としている。その方法として、細胞の成熟度の指標にもなり得ると考えられる細胞間接着複合体に着眼した実験を予定した。当該年度は準備実験として、まず正常リンパ管内皮細胞のAJ、TJ構成因子に関して検討し、確認を行った。また今後正常リンパ管と癌新生リンパ管の比較を最終的に行う必要があり、そのために癌新生リンパ管をミミックする実験を考えている。その際に用いる比較実験の一つとして有用であると考えているTER(経皮内皮電気抵抗値)の測定を、リンパ管内皮細胞において行った。また研究者が当該年度に論文にて発表した、新規細胞接着複合体関連分子の正常リンパ管内皮細胞における発現についても検討を行った。当該年度に最終的に行う予定としていた手術検体を用いた実験は、抗体の特異性等を確認するための実験を行い、今後ヒト口腔癌における癌新生リンパ管の観察を行うための準備とした。逆に当該年度に行う予定の一つに考えていたマウスを用いた実験に関しては、現在正常マウスのリンパ管を用いた実験を考慮している。以上のような結果から、当該年度の目的の内、正常リンパ管内皮細胞の細胞接着管複合体に関する検討と、ヒト手術検体を用いることを考慮した予備実験は予定通りに行い、結果を出すことが出来た。逆にマウスに関する研究を本年は行えなかった。よって、現在までの達成度はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究応募申請書の平成24年度以降の目標の一つとして、口腔癌新生リンパ管培養細胞株の樹立を考えた。そのための準備実験として、現在用いているヒトリンパ管内皮細胞を癌新生リンパ管に形質転換させるような実験を考えている。具体的にはヒトリンパ管内皮細胞に対し、癌が産生すると考えられているサイトカインを加える実験や、細胞の極性維持に関与していると考えられている分子のノックダウン実験などを考慮している。その際の比較の指標として、TERの測定や細胞間接着複合体の変化(免疫染色による)、または3次元培養法を用いたlumen形成能などを比較し、相違性を検討する。その結果を裏付ける実験として、ある種のサイトカインの影響により癌新生リンパ管様に変化したヒトリンパ管内皮細胞に、そのサイトカインの働きを阻害する試薬を加え、正常に戻るかどうかを確認する。こうした培養細胞を用いた実験を行うことで、正常リンパ管と癌新生リンパ管の相違性に対する理解を深めていくことを今後の目的とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の最終的な目標として(1)ヒトリンパ管内皮細胞を用いた実験、(2)マウスを用いた実験、(3)ヒトの手術検体を用いた実験を挙げた。現在までの実験結果より、今後(1)に関する研究をまず集中して推進していくのが適当であると考えている。そこで、次年度の研究費の使用計画は、細胞培養のための試薬、免疫染色やwestern blotting等を行うための抗体、3次元培養を行うための培養試薬、癌新生リンパ管をミミックするためのサイトカイン、及びそのインヒビター、または極性分子のsiRNA用の試薬などに使用することを考えいてる。
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