研究課題/領域番号 |
23792340
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
明石 昌也 神戸大学, 医学部附属病院, 医員 (40597168)
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
口腔癌の所属リンパ節転移は患者の予後に関わる最重要因子である。近年悪性腫瘍がリンパ管新生能を有し、その結果癌のリンパ節転移を促進しているとの報告がマウスなどを用いた実験により証明されて来た。しかし、悪性腫瘍による新生血管が正常血管とはその強度や走行の直線性など幾つかの点で大きく異なる性質を有しているのが判明しているのに比べ、癌新生リンパ管と正常リンパ管の相違性についてはいまだ完全に理解されていない。本研究の最終目的は、癌新生リンパ管の特質性に関する研究を行い、口腔癌のリンパ節転移のメカニズムを解明することにある。 その方法として、研究者がこれまでに従事してきた血管内皮細胞の細胞間接着を検討する方法を用いた。細胞間接着複合体は主にtight junction(以下TJ)とadherens junction(以下AJ)から構成されている。血管内皮細胞においては、AJ構成分子であるVE-cadherinやTJ構成因子であるclaudinに関する過去の報告は多くあるが、リンパ管内皮細胞においてはAJ、TJ構成因子に関する詳細な評価はいまだ充分であるとは言えない。研究者は平成23年度に血管内皮細胞における新規細胞間接着関連分子(Akashi, M. et al. Biochem Biophys Res Commun 413: 224-9, 2011)に関する報告し、同分子のリンパ管内皮細胞における発現の検討を行った。 さらに平成24年度の研究実績として、癌新生血管と正常血管との比較目的で行われているようなアッセイをリンパ管内皮細胞において行った。具体的には血管新生を促す様々なサイトカインの影響を細胞間透過性や、免疫染色による細胞間接着や細胞骨格の変化の観察により検討するのと同様の目的で、リンパ管新生を促進すると考えられている幾つかのサイトカインによるリンパ管内皮細胞の変化の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は癌新生リンパ管の特質性に関する理解を深め、口腔癌のリンパ節転移のメカニズムを解明することを最終目的としている。その方法として、細胞の成熟度の指標にもなり得ると考えられる細胞間接着複合体に注目した実験を予定した。昨年度は準備実験として、まず正常リンパ管内皮細胞のAJ、TJ構成因子に関して検討し、確認を行った。最終的には正常リンパ管と癌新生リンパ管の比較を最終的に行う必要があり、そのために癌新生リンパ管をミミックする実験を平成24年度に施行した。 具体的には、正常リンパ管と癌新生リンパ管を比較するための有用な実験の一つであると考えているTER(経皮内皮電気抵抗値)の測定を行った。さらにリンパ管新生を促すと考えられている各種サイトカインのTERや細胞間接着複合体に対する影響を検討した。また研究者が昨年度に報告した、新規細胞接着複合体関連分子の正常リンパ管内皮細胞における発現についても検討を行った。本研究で最終的に行う予定としていた手術検体を用いた実験のための、抗体の特異性等を確認するための実験を行い、今後ヒト口腔癌における癌新生リンパ管の観察を行うための準備とした。 以上のような結果から、当該年度の目的の内、正常リンパ管内皮細胞の細胞接着管複合体に関する検討と、正常リンパ管と癌新生リンパ管とを比較し癌新生リンパ管の特質性を理解するという本研究の最終目的には着実に近づいており、よって現在までの達成度はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究応募申請書の平成24年度以降の目標の一つとして、口腔癌新生リンパ管培養細胞株の樹立を考えた。そのための準備実験として、現在用いているヒトリンパ管内皮細胞を癌新生リンパ管に形質転換させるような実験を考え、具体的にはヒトリンパ管内皮細胞に対し、癌が産生すると考えられるサイトカインを添加した環境のもと細胞培養し、その際の細胞のTERや細胞間接着複合体の変化、または3次元培養法を用いたlumen形成能等を比較し、その相違性の検討を行った。こうした培養細胞を用いた実験を行うことで、正常リンパ管と癌新生リンパ管の相違性に対する理解をこれまでに深めることが出来た。 今後は培養細胞実験により得られた知見を応用し、今後手術検体を用いた検討を行っていく予定としている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の目標として①ヒトリンパ管内皮細胞を用いた実験、②マウスを用いた実験、③ヒトの手術検体を用いた実験を挙げた。これまでの実験結果より、当該年度は①に関する研究をまず集中して推進していくよう予定し、リンパ管培養細胞の細胞間接着複合体の観察、リンパ管新生を促すようなサイトカインに曝された場合の細胞間接着複合体や細胞呼格の変化に関する検討を具体的に行うことが出来た。 そこで次年度の研究費の使用計画は、これまでの培養細胞実験により得た知見を生かして、③ヒトの手術検体を用いた免疫染色等の研究に使用することを考えている。
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