口腔癌の所属リンパ節転移は患者の予後に関わる最重要因子である。近年悪性腫瘍がリンパ管新生能を有し、その結果癌のリンパ節転移を促進しているとの報告がマウスなどを用いた実験により証明されて来たが、悪性腫瘍による新生血管が正常血管とはその強度や走行の直線性など幾つかの点で大きく異なる性質を有しているのが判明しているのに比べ、癌新生リンパ管と正常リンパ管の相違性についてはいまだ完全に理解されていない。本研究の最終目的は、癌新生リンパ管の特質性に関する研究を行い、口腔癌のリンパ節転移のメカニズムを解明することにある。癌新生血管と正常血管との比較目的で行われているようなアッセイをリンパ管内皮細胞において行い、血管新生を促す様々なサイトカインの影響を細胞間透過性や、免疫染色による細胞間接着や細胞骨格の変化の観察により検討するのと同様の目的で、リンパ管新生を促進すると考えられている幾つかのサイトカインによるリンパ管内皮細胞の変化の検討を行った。血管内皮細胞に対する炎症性サイトカインTNF-αの影響に関してはこれまでに多数報告されているが、研究者はリンパ管内皮細胞に対するTNF-αの影響を特に細胞間接着複合体に注目し観察を行った。その結果、①正常リンパ管内皮細胞において幾つかの細胞間接着関連分子(VE-cadherin、PECAM-1、ZO-1)の局在が異なること、②TNF-α刺激下で正常細胞における特有のVE-cadherinの局在がほぼ消失し、③それに起因すると思われる細胞間透過性の亢進を認めたこと、④正常細胞とTNF-α刺激細胞とでVE-cadherinの総タンパク質量は不変であったことから、TNF-αによりVE-cadherinの細胞膜への局在が変化していたと考えられたこと、などを確認し査読付き海外雑誌に報告した。
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