研究概要 |
口腔粘膜を構成する上皮細胞,線維芽細胞は病原性微生物の付着,侵入に対して防御的な自然免疫機能を有する一方で,炎症性生理活性物質を分泌し,炎症の惹起に積極的な役割を果たしていると考えている.これまでに我々は, Th1サイトカインの刺激により口腔粘膜上皮・歯肉線維芽細胞から,著明に誘導されるT細胞活性因子であるCXCL9,10,11ケモカインが口腔粘膜炎症疾患の発症機序に関与することを報告しているが ,細菌,ウイルス由来の特異的病原体の付着,侵入に対する口腔粘膜上皮細胞,線維芽細胞の免疫応答と炎症性口腔粘膜疾患の発症に関与については明らかにされていない.一方,Toll-like receptor (TLR) は病原体に特有な構造(pathogen Associated Molecular Patterns, PAMPs)を認識する膜タンパク質であり,自然免疫応答に関与する.ヒトにおいてはTLR1からTLR10が同定されている.TLRがPAMPsを認識すると細胞内シグナルが生じ,炎症性遺伝子が誘導されると報告されている.またTLRの発現と炎症性粘膜疾患の関連の報告があり,難治性大腸粘膜疾患である潰瘍性大腸炎や皮膚炎症疾患乾癬におけるTLRの発現増強の報告が認められている.口腔領域では健常歯肉と比較して重度歯周炎でTLR2,4 が強く発現しているとの報告があるが,口腔粘膜上皮細胞,線維芽細胞においてのTLR1-10の発現や炎症性粘膜疾患との関与は報告されていない.今回の実験計画では細菌,ウイルス由来の特異的 病原に対してTLRを介して起こる口腔粘膜上皮細胞,歯肉線維芽細胞の免疫メカニズムを解明し,さらに難知性粘膜炎症との関与を検討し,新しい治療,検査法への応用を考察することは臨床研究上非常に有意義であると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口腔粘膜細胞におけるTLR1-10の mRNAの発現をRT-PCR 法にて検討した結果,不死化口腔粘膜上皮細胞RT7,不死化歯肉線維芽細胞GT1,正常歯肉細胞,線維芽細胞を発現が認められた.RT7,GT1にTLR ligand である特異的細菌由来成分(Pam3CSK4 (TLR1/2), double-strand RNA (TLR3), Escherichia coli lipopolysaccharide, LPS (TLR4), Flagellin (TLR5), Macrophage-activating lipopeptide, MALP-2 (TLR2/6) and CpG motif oligodeoxynucleotide, CpG-ODN (TLR9) を添加し,Real-time RT-PCR法, ELISA 法を用いてIL-8, CXCL10のmRNA,蛋白の発現を検討した.その結果4,RT7ではTLR7 ligand 以外のすべてのligand, またGT1でTLR7, TLR9 ligand 以外のすべてのligandにおいてIL-8mRNA, 蛋白 の増加が認められた.一方,RT7ではTLR3, TLR5 ligand で,GT1ではTLR1/2, TLR3, TLR4, TLR5 ligand によってCXCL10 mRNA, 蛋白 の増加が認められた.さらに両細胞においてTNF-alpha が様々なTLR ligand で誘導されるIL-8, CXCL10の発現を調節することが示された.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から様々なTLR ligand が口腔粘膜上皮細胞,線維芽細胞のCXCL10, IL-8 の発現を誘導することが示された.またTNF-alfa がTLR ligand で誘導されるIL-8, CXCL10の発現を調節すること,また両細胞によってその調節が異なっているが示された.次年度はTLRの発現を増加させる因子を検討するために,炎症性サイトカインであるTNF-alpha, IFN-gamma による口腔粘膜上皮細胞,線維芽細胞におけるTLRの発現誘導を検討する. TLR ligand によって誘導される遺伝子の細胞内シグナル伝達経路を検討する.また難治性口腔粘膜疾患とTLRの関与を検討するため,口腔粘膜疾患組織中のTLR の発現や局在を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
TLRの発現を増加させる因子を検討するために,炎症性サイトカインであるTNF-alpha, IFN-gamma によるTLRの発現誘導をReal-time RT-PCR法で検討する. TLR ligand である特異的細菌,ウイルス由来物質とMAPK, STAT, NF-kBなどのシグナル伝達阻害剤を同時添加し,炎症性ケモカインの発現抑制をReal-time PCR法,ELISA法にて検討する.さらにこれらのシグナル伝達阻害剤によって抑制された経路における標的蛋白を決定するために特異的細菌,ウイルス由来物質刺激による関連蛋白の発現および経時的な リン酸化をWesternblotting 法で検討する.広島大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会による承認の下で,広島大学顎顔面再建外科にて切除し,患者に同意が得られた扁平苔せん等の口腔粘膜炎症性疾患の試料から,Real-time PCR を行い,健常口腔粘膜組織とのTLR1-10の発現の比較を行う.また違いの認められたTLRに対して免疫組織染色を行い,組織中のToll-like receptorの発現及び局在を検索する. H24年度経費として余剰分は、次年度研究結果報告を行う際に最終確認として、データの整合性、一致を確認するための研究試薬購入に充てる予定である.
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