われわれはこれまでヒト型抗RANKL モノクローナル抗体であるデノスマブにより生じる顎骨壊死の発症率がBP 注射剤と同頻度であることから、RANKL を介した破骨細胞の生存・分化誘導機構の障害により顎骨壊死が生じ、BP製剤がその障害に関与しているという仮説の下、①M-CSF存在下でRANKL によるマウス破骨前駆細胞の分化誘導の検証②BP 存在下での分化誘導の検証③BP 存在下と非存在下で培養した前駆細胞のマイクロアレイ解析によるBP 製剤標的候補遺伝子の網羅的探索を行った。その結果、RANKL 投与群は破骨細胞の特徴である多核巨細胞への変化がみられたが、RANKL とBP を同時に添加した群では破骨細胞への分化は見られなかった。このため破骨前駆細胞はBP により破骨細胞への分化が阻害されている可能性が示唆された。そこでBP 製剤投与下と非投与下で培養した破骨前駆細胞にRANKL による分化誘導を加え、cDNA マイクロアレイ解析によって両者の間でmRNA 発現レベルが異なる遺伝子の網羅的解析を行った。主にRANKL シグナル関連分子を中心にBP 非投与群(RANKL)に比べ、BP 投与群(BP+RANKL)において1/2 以下の発現低下を示すものを候補遺伝子として抽出した。その結果Nfatc1 とCar2 を同定した。これらの遺伝子に関してreal-time PCR での発現レベルの検証を行ったところ、BP 非投与群に対してBP 投与群の有意な発現低下を認めた。2 つの候補遺伝子のうち、NFATc1 は骨免疫学の分野では破骨細胞分化に必須の転写因子であり、RANKL シグナル伝達の中心的な役割を担う分子であることが証明されている。以上の結果からBP 製剤はNFATc1 の発現が抑制を通じてRANKLシグナル経路にも関与している可能性が示唆された。
|