昨年度までにわれわれは、株化口腔扁平上皮癌(OSC)細胞に発現されているEphrinB2はOSC細胞の増殖、浸潤、遊走、接着能を促進するとともに、リンパ管内皮細胞への接着および遊走能を促進し、リンパ節転移を正に制御することを明らかにしてきた。本年度はその機序について明らかにすべく以下の点について検討を行い、若干の知見を得た。 ① EphrinB2は血管内皮細胞およびリンパ管内皮細胞において、VEGFRの両内皮細胞内への取り込みとそれに続く下流シグナルの活性化を誘導し、腫瘍血管、リンパ管新生を促進する因子であることが報告されていることから、口腔扁平上皮癌組織におけるEphrinB2の発現とVEGF-A、VEGF-C、VEGFR1、VEGFR2、VEGFR3の発現および腫瘍血管密度、腫瘍リンパ管密度との関連について検討した。その結果、それらとの間に相関は認められなかった。 ② EphrinB2はVEGFR、PDGFRといった受容型チロシンキナーゼとinteractすることが報告されていることから、EphrinB2-siRNAをOSC細胞に導入し、蛋白を回収してphospho-RTKの発現への影響についてプロテオームプロファイラーアレイキットを用いて検討した。その結果、コントロール細胞と比較して、EphrinB2ノックダウン細胞においてはEGFR、ErbB2、Mer、Flt3、Tie2、TrkA、TrkB、VEGFR1、VEGFR2のリン酸化レベルが低下した。 以上のことから、EphrinB2は幾つかのRTKの発現調節を介して口腔扁平上皮癌細胞の悪性化を促進することが示唆された。
|