研究課題
近年、さまざまな難治性神経因性疼痛疾患は、患者の生活の質低下、医療費高騰に大きな影響を及ぼしている。中でも口腔顔面領域の神経障害性疼痛の多くは難治性で、食事や呼吸にも多大な影響を及ぼすうえに、気分障害(うつ症状)を併発し、治療法も確立したものがない。本研究では、ラット下歯槽神経結紮モデルによる、口腔顔面部の神経障害性疼痛発症のメカニズム解明を目標としてきたが、モデルの安定性が得られなかったため、多くの先行研究がある坐骨神経結紮モデルを使用して基盤となる研究を進めた。本研究から、ラット慢性痛モデルにNMDA阻害薬、NOS阻害薬を投与することにより、慢性疼痛の発症にはGlu受容体の活性化およびその関連シグナルNOSの活性化の関与していることが明らかとなった。また、BDNF/TrkB受容体阻害薬とBDNF(神経栄養因子)誘導剤の投与により、慢性疼痛時には神経栄養因子の低下が起こり、神経栄養因子の補充により疼痛とうつ症状の緩和が可能となることが明らかとなった。免疫組織学的検討からは、慢性疼痛時には、脊髄後角および前帯状回,扁桃体,視床下部などでc-FOS陽性細細胞、pERK陽性細胞が増加するが、神経栄養因子の補充により、これらの増加が軽減されることが分かった。さらに、慢性疼痛時にはBDNF不足に加え、関連する細胞内シグナルpERKやc-FOS発現の増強が起こり、痛覚伝達経路と合わせ記憶や不快情動に関与する神経回路における変調が起きることが予想された。今後は、神経障害性疼痛モデルに、薬剤による慢性疼痛発症モデルを加えて、神経障害性疼痛とそれに伴ううつ症状発症の機序を細胞内シグナルの伝達の面から検討していき、神経栄養因子誘導剤および抗うつ薬による神経障害性疼痛の治療の可能性を探っていく予定である。
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