研究課題/領域番号 |
23792381
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
森川 暁 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (00424169)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 癌関連線維芽細胞 / 間葉系幹細胞 |
研究概要 |
平成23年度は以下の研究内容を計画した。1, 扁平上皮癌自然発症型マウスに発生した癌組織から、腫瘍間質を構成する間葉系細胞分画の特異抗原を指標としたフローサイトメトリー(FCM)による解析。1) 扁平上皮癌自然発症型マウスの間質細胞悪性転化の様子を調べるため、癌細胞周囲に存在する悪性間質細胞(CAFs)を培養操作なしで直接分離する実験系を確立する。2) 最もわかりやすく細胞分画を分けることができる細胞表面マーカー(CD45、Ter119、PDGFRα、Sca-1)と蛍光色(FITC、PE、APC等)の組み合わせの条件を検討する。2, 癌組織中の間葉系細胞分画における血管新生、リンパ管新生、炎症性因子を検索し、CAFsへの教育機構を明らかにする。1) 癌が進行していく各病期、各間葉系細胞分画における血管新生因子、リンパ管新生因子の発現量を調べる。2) これまでの予備的実験にて、オステオポンチン(OPN)がヒト口腔扁平上皮癌の浸潤端に接する間質細胞におて発現していることを確認している。OPNを含む炎症促進因子およびサイトカインがどのタイミング、どの細胞分画で上昇しているのかを解析する。3, 血管新生因子、リンパ管新生因子、炎症促進因子に対する中和抗体、あるいはノックダウン法によって腫瘍の進展を抑制できるかをin vitroおよびin vivoにて調べる。計画した研究内容においては、上記1-1)、1-2)を達成した。研究計画1は本研究計画を進めていく上で毎回行う実験手技であり、非常に重要な条件検討であった。癌組織の周囲間質細胞をいかに生存率を高く維持した状態で実験を進めていくのかを検討した。その結果、FCMで癌周囲間質細胞と癌細胞を高い生存状態で解析段階に移行させるとともに、適切な抗体染色方法と抗体染色の組み合わせを決定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の研究計画では1:扁平上皮癌自然発症型マウスに発生した癌組織から、腫瘍間質を構成する間葉系細胞分画の特異抗原を指標としたFCMによる解析、2:癌組織中の間葉系細胞分画における血管新生、リンパ管新生、炎症性因子を検索し、CAFsへの教育機構を明らかにする、3:血管新生因子、リンパ管新生因子、炎症促進因子に対する中和抗体、あるいはノックダウン法によって腫瘍の進展を抑制できるかをin vitroおよびin vivoにて調べるという研究計画を立案した。まず、扁平上皮癌自然発症型マウス搬入についてであるが、海外の研究機関と本研究に関しMTAまで進めた。しかし、海外から本大学にマウスを搬入する際に必要な微生物学的検査に非常に長い時間と費用が必要である事がわかったため、研究計画を変更し、癌研究で一般的に用いられている方法に切り替えた。すわなち免疫不全マウスにヒトがん細胞株を移植し、その移植モデルマウスを解析する方法である。ここでの時間のロスが本研究計画がやや遅れている理由であると分析している。動物モデルを変更した本研究課題ではT細胞が欠損しているNudeマウスに2種類のヒト口腔癌細胞株であるHSC-2、OSC-19を移植して癌モデルマウスを作製した。現在は舌と皮下にそれぞれの癌細胞株を移植してそこに生じる癌関連線維芽細胞と考えられる集団をFCMにて確認できている。これまでの条件検討に予定よりも時間がかかってしまったため、上記研究計画2、3の着手が遅れている状況である。条件検討は終了し、後は研究計画通り実験を進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の本研究計画はこれまでのマウス実験に加えて、ヒト口腔癌の癌関連線維芽細胞についてヒト間葉系幹細胞マーカーを用いて解析していく予定である。具体的には1:ヒト前癌病変(白板症・紅板症)、前癌状態(口腔扁平苔癬)、口腔扁平上皮癌における癌細胞周囲間質細胞の同定と、癌の生存・増殖・浸潤・転移促進因子の解析、2:ヒト前癌病変、前癌状態、口腔扁平上皮癌切除標本における悪性間質細胞と血管・リンパ管新生および炎症関連タンパク質の発現領域の解析。本研究課題の遂行に必要となる本大学における倫理委員会申請を行い、すでに受理されている。今後は本研究課題に協力していただける患者様に適切な説明を行い、同意を得て慎重に進めていく予定である。また平成23年度に予定していたが実施できなかった実験項目・分析項目(=2:癌組織中の間葉系細胞分画における血管新生、リンパ管新生、炎症性因子を検索し、CAFsへの教育機構を明らかにする、3:血管新生因子、リンパ管新生因子、炎症促進因子に対する中和抗体、あるいはノックダウン法によって腫瘍の進展を抑制できるかをin vitroおよびin vivoにて調べる)について同時に進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は以下の内容を計画している。1, ヒト前癌病変(白板症・紅板症)、前癌状態(口腔扁平苔癬)、口腔扁平上皮癌における癌細胞周囲間質細胞の同定と、癌の生存・増殖・浸潤・転移促進因子の解析。ヒト前癌病変(白板症・紅板症)、前癌状態(口腔扁平苔癬)およびヒト口腔扁平上皮癌に対して、ヒトMSCsマーカーであるCD90とCD271を指標に、FCMによる解析を行い、各病期および各細胞分画における血管新生因子・リンパ管新生因子・炎症促進因子を調べる。1)ヒト癌病変を正常の状態から前向きに経過を追って観察することは不可能であるが、病理学的はっきり定義されている前癌病変や前癌状態ではCD90+CD271+、CD90+CD271-、CD90-CD271+、CD90-CD271-のどの分画が有意に増加しているのかをFCMによる解析で確認できる。2) 各病期・各分画における血管・リンパ管形成、炎症関連遺伝子およびタンパク質について、マウスの解析にて用いた手法にて調べる。2, ヒト前癌病変、前癌状態、口腔扁平上皮癌切除標本における悪性間質細胞と血管・リンパ管新生および炎症関連タンパク質の発現領域の解析。各切除検体における、ヒトMSCsマーカーCD90/CD271と血管・リンパ管形成、炎症関連各タンパク質およびNF-kBを対象に、癌上皮細胞との位置関係や発現領域、発現量を免疫組織染色によって明らかにする。研究費の使用計画としては申請書にあるように主に実験動物購入・管理、抗体試薬、一般試薬、血清・培養液、プラスチック製品の購入を予定している。また、最終年度ということから研究成果の海外での発表や論文作成など、研究成果報告への使用も予定している。未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、未使用分は引き続き実験を継続するために必要な消耗品費として使用する予定である。
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