本研究では口腔扁平上皮癌細胞が発現異常を示す分泌タンパク質を解析し唾液・血液などから分泌異常が検出可能な口腔扁平上皮癌の有力な分子マーカーの同定を試みた。実験材料は、表皮角化細胞株、口腔扁平上皮癌由来細胞株(6株)、および各々の培養液を使用した。2D-DIGE法、LC/MS/MS法を用いて口腔扁平上皮癌由来細胞株およびその培養液に共通して発現異常が認められるタンパク質を解析した。同定したタンパク質群からSwiss-Protデータベースを用いて分泌タンパク質をリストアップした。表皮角化細胞と比較して口腔扁平上皮癌由来細胞株に共通して統計学的に有意に発現亢進を示すタンパク質は49スポット、発現低下を示すタンパク質は77スポットであった。これらをLC/MS/MS法にて解析し重複したタンパク質を除く92種類のタンパク質を同定した。その中でデータベースを検索した結果、分泌タンパク質はSYK、ANXA2、AMBPの3種類であった。培養液中のタンパク質の比較では統計学的に有意な発現異常タンパク質は39スポット認められたが、そのうち36スポットはウシ血清由来でありヒト由来のタンパク質はJHD2C、PRSS3、TM14Eの3種類であった。今回は他科領域で発現異常の報告のあるAnnexinA2について解析を進めた。免疫組織化学染色法を用いて臨床検体を用いた検証実験を行ったところ31症例中23症例(74%)にAnnexinA2の発現低下が検出さた。本研究の結果、口腔扁平上皮癌に関連した6種の分泌タンパク質の異常が検出された。とくにAnnexinA2は口腔扁平上皮癌細胞で高頻度に発現が低下する分泌タンパク質であり、口腔癌患者の唾液から実際にAnnexinA2の発現異常が高精度に検出可能であれば、低侵襲で採取可能な唾液を用いた口腔癌のスクリーニング検査法の開発などに貢献できる可能性が示唆された。
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