研究概要 |
本研究課題では,口腔扁平上皮癌において選択的ROCK阻害剤 (Fasudil) 投与によるRhoA/ROCK経路の恒常的な活性化の抑制が,抗腫瘍性ケモカインであるBRAKの分泌を促進して,腫瘍進展を抑制するという作業仮説を検証する事を目的としている。平成23年度は,実験計画に従い(1)口腔癌細胞におけるRhoA/ROCKの活性化およびBRAK分泌抑制の確認(2)BRAK分泌に関わるRhoA/ROCK下流分子の探索とFasudil処理によるBRAK分泌機構作用の検討を行った。 はじめに,舌および口腔底由来の口腔扁平上皮癌細胞株 (HNSCC : HSC-2, HSC-3, HSC-4) を播種し, ROCK選択的阻害剤Fasudil添加後,RhoA/ROCK経路の活性化およびBRAKの分泌量を検討したところ, HNSCCにおける RhoA/ROCK経路の恒常的な活性化によりBRAKの分泌が抑制されていること, またFasudil添加によりBRAK分泌抑制が阻害されることを見出した。さらに,HNSCC を用いて,小胞分泌制御に関わると考えられるROCK下流分子のひとつであるコフィリンの脱リン酸化がFasudil投与時に抑制されることを,Wstern Blot法を用いて検討した。 従って,HNSCCにおける恒常的なRhoA/ROCK経路の活性化はBRAKの分泌を阻害していることが確認された。また, RhoA/ROCK経路示唆される。次年度は計画に基づき,in vivoにおけるFasudilのBRAK分泌促進を介した抗腫瘍作用について検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は, in vivoにおけるFasudilの口腔扁平上皮癌進展抑制機構の解明を目的に実験を行う。(1)口腔扁平上皮癌細胞移植モデルを用いた, Fasudil投与による癌進展抑制作用の検討HSC-2, HSC-3, HSC-4細胞を培養し, ヌードマウス(胸腺が欠損したためにT細胞数の著しい減少が生じ、免疫系が阻害されているマウス)背部皮下にこれらの細胞を移植し,細胞定着後(1週間)にFasudilの腹腔および経口投与 (50mg/kg/day) を1-2週間継続して行う。径時的に体重および抗腫瘍効果の判定として腫瘍径の測定を行いまた,実験24-2で免疫組織学的解析に用いる腫瘍組織検体を採取する。(2)Fasudil投与による口腔扁平上皮癌縮小作用メカニズムの検討Fasudil投与による口腔扁平上皮癌縮小作用を検討するため,実験(1)で採取したサンプルの免疫組織学的解析を行う。解析項目はBRAKの局在および分泌量の検討,またの細胞増殖の指標としてKi-67,および血管新生の指標としてCD31,von Willebrand factor の発現を免疫組織化学的に検討する。また,Fasudil投与によるBRAK分泌促進を介した腫瘍縮小メカニズムを検討するため,Directed In Vivo Angiogenesis Assay Inhibition Kit (Cultrex DIVAA) を用いてBRAKの口腔扁平上皮癌における血管新生能への影響を検討する。具体的な方法としては,ヌードマウス背部皮下にBRAKおよびVEGFを含むカプセル(angioreactor) を移植し, 9-15日後(新生血管埋入後)に回収し, 血管内皮細胞を認識する抗体(FITC;血管内皮細胞) 処理を行い,蛍光強度を測定することによりBRAKの血管新生抑制作用を検討する計画である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においても, 細胞培養実験および移植実験を頻繁に実施することが想定される。従って,細胞培養用品,分子生物学試薬,一般試薬およびプラスチック・ガラス器具等の消耗品は実験遂行に当たり必要かつ妥当である。また, 【実験24-2 Fasudil投与による口腔扁平上皮癌縮小作用メカニズムの検討】で用いるCulutrex DIVAAはin vivoにおける血管新生能を定量的に計測することが可能なkitであり, BRAK分泌促進による腫瘍進展抑制作用には血管新生の抑制密接に関与すると推測されることから必須である。
|