口腔粘膜疾患に対する原因と治療法の確立を目的に、多彩な生理作用を有するメラトニンが口腔内を保護する役割をもつ唾液中に存在することに着目し、口腔粘膜におけるメラトニンの生理的作用を明らかにするとともに、粘膜創傷治癒促進に関与している可能性について検討を行った。 前年度までに、in vitroにおいてラット頬粘膜およびヒト口腔粘膜上皮細胞にメラトニン1a受容体(Mel1aR)の発現を確認し、さらにヒト口腔粘膜上皮細胞の増殖および分化にメラトニンの影響が認められなかったことを報告した。 そこで今年度は、ヒト口腔粘膜上皮細胞に発現しているMel1aRが機能しているか否かについて検討するため、メラトニンを各種濃度で加えた後に細胞内cAMPを測定した。結果コントロール群およびメラトニン添加群で有意差は認めなかった。次に、ラビットを用いて歯肉創傷治癒に対するメラトニンの影響を検討した。ラビット下顎歯肉に化学熱傷を作成し、翌日よりメラトニンもしくはvehicleをゲル化して創部に毎日貼付し6・13日目の創部の大きさと治癒期間を測定した。その結果、創部の大きさ・治癒期間ともに有意差は認めらなかった。 以上の結果より、メラトニン受容体が口腔粘膜に発現していることからメラトニンが口腔粘膜において何らかの生理的役割を有することが考えられるが、今回の結果ではメラトニンの影響は確認されず、さらにcAMPにメラトニンの影響が認められなかったことから、Mel1aRを介するメラトニンの作用よりも、むしろ直接的なラジカルスカベンジャーとしての作用、あるいはヒト口腔粘膜上皮細胞において発現が確認された核内レセプターであるRORα1を介した作用を有する可能性が考えられた。またin vivoにおいては歯肉創傷治癒には影響を及ぼさなかったことから、他の生理的役割について検討する必要があると考えられる。
|